推したい短歌2020

ノミネート作品

ノミネートされた短歌全108首から

「推したい短歌」を選んで投票しよう!

投票ありがとうございました

短歌と推薦者からのコメントをご覧ください🙇‍♂️ その後に、みんなに推したい!と思った歌を1~5首選んでください。推薦者コメントは歌の右側の「 V 」を押すと展開されます。

投票期間は2020年12月30日〜2021年1月1日まで

#1

乱気流に突入します、すみません機長は乱気流が好きなので


/ぬぬ @nunu_2323ダ・ヴィンチ5月号 短歌ください「飛行機」

そんな理由で乱気流に突入しちゃうんだーってびっくりしました。機長の無邪気さが可愛けど怖いし、これアナウンスする人もどういう感情なんだろう。忘れられない一首になりました。

#2

たばこ火にミカと名付けるゆっくりと僕の呼吸で息絶えるミカ


/夜夜中さりとて @yorusariうたの日 2020年8月8日 題『名』

擬人法とはすなわち混乱の事だ。嘘を仕立て乗り越え何かに到達しようとしてできない絶望だ。つまり恋の本質と同じことだ。

この歌世界で本当は何も起きなかった。ミカは産まれてさえいない痛い悲しみの涙だ。

https://twitter.com/ujou31/status/1334466118535192576

#3

夏!おまへ、どこにゐたんだ心配し、なんだよ急に抱きつくな夏!


/黒瀬珂瀾 @karan_mirai「未来」2020年9月号

なんて自由でなんて面白いんだ。どこまでも挑戦的で、いつまでも若者のような黒瀬珂瀾の凄まじさ。

#4

月餅のカロリーなんて知らずとも七年歩けば月へ行けるよ


/笹本碧 @kokohatashikani歌集『ここはたしかに 完全版』(ながらみ書房)

歌集出版のいきさつをTwitterで知って手に取った一冊なので、自分はある意味純粋な読者ではないんじゃないか、そんな迷いがあったのですが、読み始めたらそんなことどこかに行ってしまいました。遙かでやさしい眼差しに、どこか杉崎恒夫さんを思いました。うんと先の笹本さんのお歌も読みたかった……。

#5

悩みごと溶けたみたいに降る雨がぬかるみにまた水を与える


/武田穂佳 短歌研究 2020年3月号「求心」

いしゃどう「音声一首評週間」の「【武田穂佳を読む週】『求心』」で紹介されており、ハマりました。

https://twitter.com/hito_genom/status/1322565814889795586?s=20

#6

枝先をすこしかすめてドアは閉じエレベーターに散る小手毬よ


/山階基  @chikaiuchini短歌研究 2020年7月号「せーので」

「小さなものが静かに崩壊する、ささやかな不安の投影である。」

土岐 友浩「ウはウィルスのウ?」より引用。砂小屋書房 月のコラム https://sunagoya.com/jihyo/?p=2197

#7

曲線は未来に伸びて、ねえ、アレクサ、何人の犠牲で済むか計算できる?


/平出奔 @Hiraide_Hon短歌研究2020年9月号短歌研究新人賞受賞作「Victim」

短歌研究2020年9月号短歌研究新人賞の選考コメントです。

「他人行儀な見方でないかと思って、一位二位には推せなかったです。でも今お二人のお話を聞いていると、そこにかえってこの作者が一連に込めた意図があるのかなという気がする。」栗木京子

(連作全体に対して)「コロナ禍を扱った作品のなかで、状況を一番捉えていると感じました」斉藤斎藤

#8

日常の舟にあなたが乗り込んで、最初は少し傾くけれど


/加藤ふと @kato_futo東京新聞 東京歌壇2020年12月13日 東直子選

恋人と日常を共にすると最初は違和感や戸惑いを覚える。そのことを舟に人が入ったときの揺れで表現した。「けれど」で止めた余韻がいい。(選者の東直子さんのコメント)

#9

殴りかえし連れていかれた少年の羊の皮が残る教室


/西鎮 うたの日 2020年7月12日題『狼』

羊の皮をかぶるという表現はありきたりだが、その羊の皮が脱がれ残されたという表現が衝撃的でした。少年はとうとう今までの自分から脱却し、教室に残るクラスメートはまさに羊の皮の抜け殻を見るような呆然とした様であったのでしょう。題の「狼」を使わずに狼を表現されているのも巧みです。

#10

夏の観覧車崩れれば冬の観覧車生まれるような万華鏡欲し


/鍵丘ノア 東京新聞 東京歌壇 2020年7月12日東直子選 一席

万華鏡の中で偶然できる形に観覧車、それも夏と冬の違いがあるものを見出そうとする繊細な美的感覚。たった一人の瞳の中の儚さと華やかさ。(評 東直子(選者))

#11

君のこと喉を鳴らして見てしまうおれのばくだんおれのばくだん


/あの井 @__anoi__うたの日 2020年11月18日 題『リフレイン』

分からないんだけど、でも凄く分かる、という絶妙な感覚を捉えている歌だと思います。

#12

吐く息が泡だった頃の僕たちが月だとおもって見てそうな花


/アナコンダにひき @two_anacondasうたの日 2020年12月27日 題『吐』

比喩力による歌の深さと広さ

#13

歌が声をまとって君にあらわれる遊園地夜更けまで艶めいて


/堂園昌彦 @dozonomasahiko第5回氷川短歌賞選評会(選者の歌として)

第5回氷川短歌賞で、選者であった堂園さんの作品として発表された歌です。 https://itabashi-hikawa-lib.jp/2020/07/53.html 「歌が声をまとって君にあらわれる」という上の句の視点がもう、それだけでロマンチックだなと。「艶めいて」という強い結句に説得力をもたせるのって実はとても難しいバランスだと思うのですが、それを難なくやってのける上の句の美しさにしびれました。

#14

ガードレールを触りながら歩いて答えが出たら終わりにします


/新井 将 @laseine80 東京新聞 東京歌壇 2020年9月13日 東直子選

多分誰もが体験したことがある風景の上の句に対し「答えが出たら終わりにします」という下の句が来ることで世界の解像度が上がった気がします。大切なことを考えているのか、そもそも答えなんかないのかもしれない。けど、あの、ガードレールに触れながら歩いた時の記憶に何か意味が付け足されるような素晴らしい短歌だと感じました。新井さんの短歌はいつも美しくてどこか懐かしいのに、本人にしか本当の意味がわからないところが大好きです。これからも応援しています。

#15

触覚を持て余してる思春期の身体は水いっぱいの器だ


/ゆりたん(たまに芍薬) @yuritanyogini東京新聞 東京歌壇 2020年8月9日 佐佐木幸綱選

親目線で読みました。もう言葉には尽くせない「思春期」特有の症状が、こんなにも柔らかく表現されているところに惹かれました。

#16

木漏れ日の中に栞のように立ちあなたは森を物語にする


/アナコンダにひき @two_anacondasうたの日 2020年5月24日 『木漏れ日』

アナコンダさんの歌は視点が美しく、情景がふわっと浮かぶようです。

この歌は絵画のようで、なんども読み返して、その景色に浸ってしまうような魅力があります。

#17

回転寿司の新幹線が走り抜けまぐろはリクライニングしていた


/5.74ft @574ft 短歌部カプカプのたんたか短歌 みんなの題詠「走」

寿司屋に行くとよぎるし、なんなら寿司屋に行ってないときもよぎってます。刺身部分がずれた状態を「リクライニング」って言うセンス、最高です。

#18

ふたりいる娘ふたりともこの家を出ていってしまう 突然のこと


/鈴木麦太朗 @mugitauros「未来」 2020年6月号

娘さんたちのひとりだちを見送る連作(引用はその一首目)。

子供との時間はいつまでも当たり前にあるものじゃないんだなぁ……って。もし前々からわかっていても、そのときがきたらやっぱり「突然のこと」って感じてしまうんだろうな……。

5月号には、遠路自転車で自家製パンを届けにいく連作が載っていて、そちらも好きです。

#19

手紙捨てない 手紙を捨てないようなわたしで本当かなと思った上で


/田中はる twitter 10月22日

自分で書いた評です→ https://hiraide-hon.tumblr.com/post/634122955965759488/20201106

(運営注釈 ここでの「自分」は推薦者本人のコメントです!)

#20

ジーンズのポケットに鍵を入れたまま洗っていたから見つからなかった


/津中堪太朗 岡大短歌 8号

自分で書いた評です→ https://hiraide-hon.tumblr.com/post/629064544290062336/20200912

(運営注釈 ここでの「自分」は推薦者本人のコメントです!)

#21

壁越しにピアノを聴けば妹から姉へ弾き手の代わりたるらし


/五十子尚夏 日経新聞 日経歌壇2020年6月6日 穂村弘選 一席

視覚ではなく聴覚によって捉えられた「妹から姉へ」の像が美しい。(評 穂村弘(選者))

#22

思い出し笑いのような温もりでときおり揺れを生む熱気球


/夜夜中さりとて @yorusariうたの日 2020年11月5日 題『思』

思い出し笑いのような、という比喩がめちゃくちゃいい。素直に読めば、景としては「熱気球」そのものの現象を歌っていると捉えられるが、この比喩があることで、景に奥行だったり、仮託された何か大きな余白が想像できる。本来「熱気球」という『絵になるもの』は、もっといろんな切り取り方があるはずなのだ。青空に自由に飛んでいく様子だったり、「熱気球」によくある鮮やかなデザインを歌ってもいいかもしれない。でもその中で敢えて「ときおり揺れを生む」を切り出してきたセンスに作者の主張がとてもよく出ているし、その原動力として「思い出し笑いのような温もり」を持ってきているところで、その主張に大きな説得力が生まれている。「思い出し笑い」はおそらく『人間』特有のものだと思うが、それはときに「揺れ」でもある。それはもしかすると、すこし怖いかもしれないが、「温もり」の産物なのだと捉えるやさしさ。そんなことを歌の余白に感じた。引用: https://twitter.com/2nd_tanka_award/status/1335231250697613312

#23

「これ薄い!飲んでみてよ」と渡されたバイスサワーがつなぐ唇


/ブーメラン学園 ザッキー @zakky34第8回芸人歌会(YouTubeチャンネル さつよしTV)

作者の実体験の歌で、絶賛恋愛中だそうです。

初見ではバイスサワーを知らなくて調べたのですが大衆居酒屋でよくあるピンク色のお酒ですごくいいチョイスだと思いました。

間接キスの歌で、美味しいから共有するのでなく味が薄いということから、相手からの好意があるのはわからないけれど、作者はドキドキしつつ喜んでいるということがわかります。

ゲスト出演された俵万智さんがこの歌を1位に選んでおり、場面の切り取り方が的確で過去や未来も想像させる豊かさを含んでいて過不足ない歌と評していました。

出典 【俵万智さん登場!!】第8回芸人歌会(https://youtu.be/cZCeECAG2mc)

#24

花言葉で解ける事件もあるだろういつかあなたをなじってみたい


/榊原紘 @hiro_geist歌集『悪友』(書肆侃侃房)

榊原さんの歌は、上の句から詩的飛躍があって下の句の具体に落ちるものがいくつかありますが、その中でも言葉で説明できない説得力と美しさを感じたのがこちらの歌でした。

(運営注釈 榊の示はネです。変換ができず”榊”表記にしております)

#25

破廉恥な迷惑メールを縦に読む「こめはいるかい」母かもしれぬ


/鈴木ジェロニモ @suzukigeno 粘菌歌会 第32回「スマホ」

今年は鈴木さんの短歌にたくさん楽しませてもらったのですが、なんでこんな歌思いつくんだろう!?となったこちらを推薦します。どこまでも笑える展開でちょっと切なさもあって素敵です。

#26

ふさわしい形容がなく類義語の森であなたを探しています


/尾渡はち @neboke_tankaうたの日2020年12月5日題「しい」

今まで出会った言葉では言い表せないほど大切な出会いの歌なのだなと思いました。類義語の森であなたを探していますという表現が本当に好きです。

#27

月という文字を梯子にして君の住む星までの最短をゆく


/阿部 啓 @output_falltwitter 2020年7月16日 #木下龍也の短歌教室

完璧な一首。初めて見た時からずっと好きです。最初に読んだ時はうわーこの人天才かもしれんね かっこいい短歌読むなぁという強烈な印象がありましたが、何度も読むうちに内在される物語について考えるようになりました。君の住む星はどこなんかなとか、正規ルートを辿るともっと時間がかかるんかなとか。ファーストインプレッションの美しさ かつ 読み手がたくさんの可能性を考えられる素晴らしい短歌です。

#28

街灯が夜霧を裂いて照らし合うように誰かと向き合えたなら


/夜夜中さりとて @yorusariうたの日 2020年9月24日『霧』

街灯は下を歩く人や街を照らすものと思いがちですが、夜霧の中でもお互いだけは見失わないで照らし合っているという情景がまず素敵です。

また、その情景のように誰かと向き合えたなら、という願いが囁くように胸に響きます。絵画のような歌でした。大好きです。

#29

教会の裏でタバコに火をつけて九回ウラに出てくるわたし


/去年 @kyonen1223うたの日 2020年12月23日 題『裏』

音の響き合いや意味の重ね合わせから、この状況に至るまでの「ドラマ」を濃厚に感じさせてくれました。

#30

何億秒かけて届いたひかりだろう右側で聞くきみの寝息は


/長井めも @longmemo_tankaうたの日2020年10月14日題「秒」

右隣で眠っている大切な人の寝息が「何億秒」もの時間をかけて届いたかけがえのないひかりである、という表現がとてもあたたかいなと思います。また、寝息だけでなく「きみ」がこんなに近くにいるという奇跡に対する主体の胸の高鳴りが伝わってきます。素敵な歌で大好きです。

#31

ゴムんとこぜんぶが痒いぼくんちが貧乏だって知ったときから


/岩倉曰 @wakuwakuiwakuダ・ヴィンチ2020年9月号「短歌ください」

わたしの中で一番の短歌です。これを抜く短歌が見つからないです。

#32

そうですねお辛いですね悲しみはよくわかりますハンコはここです


/砂狐 @sakotankaうたの日 2020年6月4日 題「です」

フリとオチを一首の中でどう効かせるか、は短歌を作る上で私自身とてもこだわっているところです。この歌は第四句までフリを貯めに貯めて、最後、結句で最高のかたちでオトせていると思いました。

#33

やることが全て決まっているような毎⽇をまた過ごしてみたい


/pha @pha歌集『phaの短歌』

はてなダイアリーで短歌を発表されていたころ、好きすぎてこっそりプリントアウトして持ち歩いていました。まとめて読めて嬉しい!

#34

新メンバーピャーと申しますグーに負けチョキに負けパーにも負ける手です


/岡本雄矢 @yuyaokamoto1984芸人歌会特別版〜芸人VS歌人 短歌合戦!(YouTubeチャンネル さつよしTV)

テーマ「戦い」で詠まれた歌です。

長年様々な戦いの場面で多用されてきた伝統のあるじゃんけんになんと新メンバーが現れるという歌。しかもそれはピャーという全ての手に負ける手。歌会の中ではガンジーのような手という評もありました。じゃんけんという競技には負けるが、もっと大切な何かには勝てるのではという評も出ていて、弱い手かもしれないけれどみんながピャーを応援したくなるような素敵な発想だと思いました。

出典 芸人歌会特別版〜芸人VS歌人 短歌合戦!(https://www.youtube.com/watch?v=CWdaOZqm7eE)

#35

相方の隣でびっくりしてるだけ無能だもんでギャグとか無理です


/つちふまズ小澤 @srkrozawa第6回芸人歌会(YouTubeチャンネル さつよしTV)

テーマ「仕事」で詠まれた歌です。

芸人歌会という芸人さんが真剣に短歌を詠むという企画で、1番芸人さんならではの職業詠が珍しくてとてもおもしろいなと感じました。

作者は芸人としての仕事の他に飲み屋さんでアルバイトをしており、その2つの仕事について詠んだ歌で、普段ツッコミを担当している作者に酔っ払った客が「なんかギャグとか面白いことやって」と絡んでくることに対し、「無能だもんで」と謙遜しつつ無茶ぶりに腹立たしさを隠しているという歌です。

出典 第6回芸人歌会(https://youtu.be/HugwLE_g_To)

#36

重力は引く手のように海に雨、目に目薬を落とすやさしさ


/アナコンダにひき @two_anacondasうたの日 2020年 8月26日『重』

重力や海といったとても大きなスケールのことを詠み込んでいるにも関わらず、下の句では目に目薬を落とすといったささいな日常を詠んでいて、惹き込まれる歌です。また、リズム感も良く、「引く手のように海に雨、」声に出して読みたくなります。

#37

生まれつきママだったような顔をして友が振らせる小さな手首


/有村鹿乃子 @copain0403東京新聞 東京歌壇 2020年9月13日 佐佐木幸綱選

すっかり母になりきって、小さな子の腕を持って手を振らせる友。場面の取り方、イメージの描き方が絶妙。選者の佐佐木幸綱さんのコメント

#38

人生が何度あっても間違えてあなたに出会う土手や港で


/千種創一 @chigusasoichi歌集『千夜曳獏』(青磁社)

こんなにもすべてゆだねたくなる絶望があるのだと知りました。

#39

原因は電池切れだと思ってて思ってなかったのかもしれない


/御殿山みなみ @1ookat2えいしょ2020

えいしょ2020誌上に書いてます(平出です)

#40

貝殻にくちづけ 宇宙の心臓で青が爆ぜたら春雷がくる


/遠野景 @K_erinnerung東京新聞 東京歌壇 2020年5月10日 東直子選 

イメージの壮大さ。自らの想像した虚構が、しかし神の創造した真実でもあるかのように思わせる陶酔。配合の距離の絶妙。空白の効果。叙述の構造の分かりやすさまである。短歌の抒情性にまるで俳句のような切れ味だ。

#41

はいどうもご苦労さんというように鎮座しているアボカドの種


/青山祐己 @bokeyamountainうたの日 2020年11月23日 題『ド』

あの厄介なアボカドの種を、こんなに軽妙に読める感性が素晴らしいと思いました。作者もきっとおおらかなひとなのだろう、と楽しく読めました。

#42

できればすぐにあなたに死んでほしかった夜の帳が今でもおりる


/石井僚一 歌集『目に見えないほどちいさくて命を奪うほどのさよなら』

Kindle限定の歌集からです。

#43

トイプーがわめく夜明けのドンキ前ふざけて言った方が本当


/春荷ちかや @HaruniChikaya粘菌歌会第27回「LOVE」

http://blog.livedoor.jp/nenkinkakai/archives/22068818.html

(運営注釈 粘菌歌会第27回「LOVE」のページに飛びます)

#44

そんな星こすって光らせたことのある手は不潔 望むところよ


/平岡直子 @tricot7外出三号

『外出』は同人誌です。

#45

もしきみがこのまま夕焼けに消えたらきみの夕焼き、にはならないか


/梅丘つばめ @tsubakurame_729うたの日 2020年11月25日 題『もし』

「夕焼け」はとかく短歌をエモくするために用いられがちなフレーズだと私は思っているのですが、この歌は、下の句の「夕焼き」が良い意味でそのエモさをチャラにしています。そしてチャラにしたことによってむしろ、「きみ」と作中主体との関係性がにじみ出てきている気がします。

#46

まだ話すことのできない子と過ごす部屋にとけ入るような夕焼け


/加納舞子 @mai_520_NHK短歌 2020年2月号 大辻隆弘選 題「話」一席

「言葉を持たない乳児は神聖な感じがする。言葉がない分、ダイレクトな命と命の触れ合いがあるのだろう」NHK短歌 2020年2月号大辻隆弘コメント

#47

あさやけが胸から流れ血のようでどうかしてる/同化してる、とこの目を閉じた。


/鈴木精良/スズキセイラ @fufunag 東京新聞 東京歌壇 2020年10月18日 東直子選

「胸から流れ血のようで」という表現が本当に好きです。情熱と淋しさを感じ、ふとした瞬間に何度も思い出すような一首でした。下の句で二つの意味が取れるような構成になってるのもかっこいいです。

これからも応援しています。

#48

宝塚歌劇のような夢見たし 花 月 雪 星 宙なべて燃ゆ


/五十子尚夏 短歌な大忘年会2020 in the zine~うたげ

「花 月 雪 星 宙」という普通は一首の内に共存できない要素が組名として並列される巧みさ。それを可能にする宝塚の華やかなイメージ。

#49

髪ゴムの色が自由になったってわたしはけっきょく紺の階級

/久藤さえ @naekudoダ・ヴィンチ「短歌ください」2020年2月号

「ラメ入りや明るい色の髪ゴムをつけるのは一部の目立つ女子たちだけで、私はずっと紺の髪ゴムでした」という作者のコメントがありました。校則が変わって「自由」になったけど、「紺」はもともと許されていた「色」なんだろう。「紺の階級」という云い方が残酷かつ詩的に胸に響きます。選者の穂村弘さんのコメント

(この次の歌からは推薦者コメントなしでノミネートされた歌です。)

#50

来世でもきみと暮らすよきみがもし人間ならば僕が犬だよ


/犬口マズル @dog_muzzleクロワッサンONLINE 木下龍也の短歌組手 2020年11月6日 テーマ「犬」

#51

あきらめの吐息でもいい銀色の冷めた身体に熱をください


/木下龍也 @kino112歌書『天才による凡人のための短歌教室』お題「最近は吹いていないけれどあきらめきれないトランペットについて。」(ナナロク社)

#52

またあなたに会えるのならば夢だってマリファナだって何だってする


/千種創一 @chigusasoichi歌集『千夜曳獏』(青磁社)

#53

白黒写真(モノクロ)で色えんぴつを撮つてみる赤はなぜだか赤だとわかる


/秋月祐一 @capybara510 ※(モノクロ)はルビ歌集『この巻尺ぜんぶ伸ばしてみようよと深夜の路上に連れてかれてく』 (青磁社)

#54

ソーイングセットの隅に一本の針が入っていたはずの溝


/道券はな @peter_pan_co角川短歌2020年11月号

#55

二十年(はたとせ)の互ひを知らず汝が骨を守(も)りゆくもののあるを願へり


/黒瀬珂瀾 @karan_mirai角川短歌 2020年11月号

#56

二千年前からミロのヴィーナスがしづかに耐へてゐる幻肢痛


/千葉優作 @Sunset_Chiba歌壇 2020年5月号

#57

ビニール傘つひに壊れたりありがたう僕より先に壊れてくれて


/高野公彦 「コスモス」 2020年11月号

#58

カーテンは下にむかってやさしさを垂らしてそれがときに傲慢


/江戸雪 @edoyuki1212ねむらない樹vol.5 「ユートピア」

#59

ほろぼした国の言葉でひかりとはなんというのかたずねる夜明け


/松野志保 ねむらない樹vol.5 「五月の欠片をひろい集めて」

#60

かえりたくないよずーっと借りパクの漫画のようにここに居させて


/nu_ko @nukothecatうたの日 2020年9月30日 題『返』

#61

わたしにはわたしを生きる意味があるBABY, THE STARS SHINE BRIGHT


/田丸まひる @MahiruTamaru「未来」 2020年9月号

#62

青空とひかりと雲と乱気流 あなたの風で息ができない


/瑠璃紫 @ruri_murasakiうたの日 2020年9月7日 題『乱』

#63

しづかにしづかに吾児は憤怒を堪へをり〈つぎとまります〉先に押されて


/黒瀬珂瀾 短歌研究 2020年3月号

#64

優しいね、優しいねって呪われて上手く装填できない怒り


/神丘 風 @kmtrf4ネットプリント「デクテット」2020年5月30日

#65

詩はあなたを花にたぐへて摘みにくる 野を這ふはくらき落陽の指


/川野芽生 @megumikawano_歌集『Lilith』(書肆侃侃房)

#66

花束に花多ければ花言葉あふれて氵に水を遣る


/工藤玲音 ねむらない樹vol.5 「花束に氵(さんずい)」

#67

あこがれは何年先も追いつかない宇宙図鑑のおまけのページ


/盛田志保子 @morishiho歌集・新装版『木曜日』(書肆侃侃房)

#68

すらすらと『鬼滅の刃』の長台詞諳んじて児よ頼むから九九


/黒瀬珂瀾 文藝春秋 2020年5月号

#69

転校のたび「しあわせの幸です」と言うから私たぶんしあわせ


/芍薬 @yuritanyogini第二十六回宮柊二記念館全国短歌大会

#70

生まれた日、君に翼がありました。昨日見たけどまだありました。


/藤田美香 @w_isana NHK名古屋放送局「さらさらサラダ」2020年9月30日 お題「鳥」

#71

「プロならばしっかりしろ」と満タンのマヨネーズ渡されている午後


/織部壮 @olibesouうたの日 2020年5月14日 題「午後」

#72

harassとは猟犬をけしかける声 その鹿がつかれはてて死ぬまで


/川野芽生 @megumikawano_歌集『Lilith』(書肆侃侃房)

#73

骨くらい折っていいのにその指で本の頁を捲る手つきで


/二階堂奥歯 歌集『八本脚の蝶』(河出文庫,河出書房新社)

#74

黒翼を返し舞子がいっせいに朱を染め上げるよさこいの秋


/真島朱火 @shuca_mNHK短歌 2020年5月号

#75

やわらかく鳥が踏みゆく空中の見えぬ踏み切り板のつめたさ


/斎藤秀雄 @hideocpa角川短歌2020年12月号 第五ニ四回 角川歌壇/特選

#76

立ちながら靴を履くときやや泳ぐその手のいっときの岸となる


/榊原紘 @hiro_geist歌集『悪友』(書肆侃侃房)

#77

年金で焼肉食べたかったなあ のど飴そうそうに噛みくだき


/二三川練 ねむらない樹vol.4

#78

何処にもない国の祈りの所作に似る石鹸で手を洗うそのたび


/toron* @toron0503うたの日 2020年10月10日 題『自由詠』

#79

声帯ごと癌を葬る朝きみはわれの名前を何度も呼べり


/キール @madame_kirうたの日 2020年9月29日 題『癌』

#80

一生を時計のなかに終りたるちいさき鳩を野に弔えり


/小野りす @risu_kimidoriうたの日 2020年4月6日 題『計』

#81

幸せが山ほどきみに降るでしょう十二星座が笑いかけてる


/犬口マズル @dog_muzzleTwitter 2020年11月1日

#82

今日一日外出せぬと決めし朝ピンクの口紅ふくよかにさす


/大森由紀子 読売新聞 読売歌壇 2020年11月23日栗木京子欄

#83

蝉の声、畑のきゅうり、仏間の絵 ばあちゃんちでする自慰のやましさ


/青葉あい @aoixxui第三回青春短歌甲子園

#84

鉄棒は地軸 あなたが空を蹴るたびに地球はわずかに動く


/伴風花 @banfuuka詩客SHIKAKU 2020年2月1日号 「それなりでそれなりに」

#85

ああ叔母はばかにするけどわれにわが母ひとりありひとりありけり


/山下翔 @Yamashio_ねむらない樹vol.4

#86

ドアノブの傘を滴る雨粒が部屋の数だけつくるみずうみ


/鈴木ジェロニモ @suzukigenoうたの日 2020年10月10日 題『自由詠』

#87

インスタにあなたが虹をあげていて思わず空を見上げてしまった


/街田青々 @bluesuqremeあみもの 第二十五号

#88

エアリプを宙に放てば繊細な人たちにだけ降る酸性雨


/神丘 風 @kmtrf4ネットプリント「デクテット」2020年5月30日

#89

楽になってほしいだなんて 憎しみの眼窩に嵌まる月をください


/榊原紘 @hiro_geist歌集『悪友』(書肆侃侃房)

#90

会いたいは愛だと思う減ることのないコーヒーを毎朝あげて


/朧 @rou_tanka短歌部カプカプのたんたか短歌 みんなの題詠「愛」

#91

ああまた生殖か 性のあるからだを捨てておれがおまえのコンビニになる


/展翅零 @Attacusatla毎日新聞 毎日歌壇 2020年11月2日 加藤治郎選

#92

わたくしが橋であったら夜すがらに隣の橋の灯を眺めたし


/斎藤秀雄 @hideocpaNHK短歌11月号 寺井龍哉選題「もし」/ニ席

#93

ばらの花 ぜんぶ無駄だとわかっててそれでも祈ることが愛だよ


/春原シオン @haruhara_sionうたの日 2020年5月23日 題「無」

#94

「ゆるす」というたった3文字のパスワード忘れていたね 朝焼けの窓


/笹公人 @sasashihan歌集『念力レストラン』(春陽堂書店)

#95

声。たぶん声の遺影だ。今さっき吹いた風。なんかそんな気がした。


/街田青々  @bluesuqreme うたの日 2020年5月23日 題『今』

#96

わたしには見えぬ黒子に触れながら掠れた声でこいぬ座と言う


/榎本ユミ @enomotoyumi1007第32回恋愛短歌同好会

#97

エウロパの厚きこほりを思ふとき脳(なづき)の淵にゆるぐ古代魚


/東風めかり @mekari1573第38回子規顕彰全国短歌大会 文部科学大臣賞作品

#98

おつぱいはまあるい花野、わたくしのてふてふ、きみは駄目なてふてふ


/朧 @rou_tankaうたの日 2020年12月5日 題『まあ』

#99

絵の中の絵の中の絵の中にある海の向こうも果てしなく海


/小鹿野ねごと @kojika_negotoうたの日 2020年9月16日 題『向』

#100

紅しょうが紅しょうがって声に出しあんまり赤くない方を買う


/村上健志 @fpmurakamiNAOTマガジン 2020年8月30日

#101

音一つない病室は炭酸のふたをしずかにあけるㅤ手わたす


/笠原楓奏(ふーか) Fuka_kasahara歌集『人の死なない話をしよう』

#102

椅子として生まれたかったがたついてあなたに布を嚙ませてもらう


/道券はな @peter_pan_co角川短歌 2020年11月号 第66回角川短歌賞受賞作

#103

2番線ホームがジュラ紀に戻るとき貨物列車の甲高き声


/犬口マズル @dog_muzzule読売新聞 読売歌壇 2020年11月10日 俵万智選

#104

椅子に深く、この世に浅く腰かける 何かこぼれる感じがあって


/笹川諒 @ryosasa_river『ぱんたれい』vol.2

#105

きみと過ごしたどの季節にも鴨川があり鴨川をはなれてしまう


/阿波野巧也 @tkyawnss歌集『ビギナーズラック』

#106

「短歌、好き?」とか聞けば扇風機にも首を振られて夏は夕暮


/永井文鳥 @BB_Bonze「未来」 2020年11月号

#107

(同じ作品重複のため欠番です。ご指摘ありがとうございました。)

#108

ああこんなことつてあるか死はこちらむいててほしい阿婆世(あばな)といへど


/岡井隆 「未来」 2020年6月号

投票ありがとうございました

投票期間は2020年12月30日〜2021年1月1日まで