今年の短歌
2023下半期
#1 - 131
#1 - 131
#1
夕焼けは誰と見たって夕焼けであなたと見ればすごい夕焼け
/ 吉村おもち X(Twitter)2023年5月7日
https://twitter.com/mechanobiru
達観したような上の句から、下の句での鮮やかな転換が見事。「すごい夕焼け」というストレートな体言止めが、真っ赤に染まった二人だけの世界の広がりを感じさせて良き。平易な言葉でエモさを感じさせるのは流石。
/この歌を推薦した人 T・G・ヤンデルセン
https://twitter.com/TGyandersen
#2
もう心残りも無くて同窓会終わりのじゃあねは本当のじゃあね
/ 北谷雪 2023年11月4日うたの日題『残』
https://twitter.com/kitaya_misomiso
同窓会で好きな人に会ってとても楽しかったのだろう。だから心残りもなく、じゃあね、なのだろう。この、じゃあね、は、その相手に対してのものであることはもちろんだが、それだけでなくあの時の自分や、今日までの想い続けていた日々に対してのじゃあねなのだろう。本当のじゃあねを言い放った主体はどのような表情をしているのかと想像すればとても切ない気持ちになる。
/この歌を推薦した人 ハリお
#3
二時間と少し経ったらこの映画を観たあとの人生が始まる
/ 岩倉曰 ネットプリント「全自動種蒔き機」2023年7月26日~8月3日
https://twitter.com/wakuwakuiwaku
チケットを購入した瞬間かな、と思いました。
自分の話になってしまうのですが、映画のチケットの購入ボタンを押す瞬間、本当にこの映画でよかったのかな、この時間とこのお金を映画に使ってよかったのかな、と考えてしまいます。
それと同時に、もしかしたらこの映画が自分の価値感をを変えてくれるようなものなのかもしれない、とも僅かに期待してもいます。
大きなことでもごく些細なことでも、何事にも〈する前〉と〈した後〉があって、それをしたことによって、〈する前〉の人生は〈した後〉の人生とは異なっているかと思います。
それが前提ではあるものの、私は、映画に大きく人生を左右されたことが(記憶にある限りでは)なく、観る前の自分の人生と何かが決定的に変わってしまった、という実感はあまりありません。
それでも観終わった瞬間は、(しばらくするともとに戻ってしまうことも多いですが)知識の量や興味の方向、感情が変わっていることを実感します。
これからも、購入ボタンを押すときに私が期待してしまうことは、価値観を変えてくれるような映画体験なのですが、そうでなくても、この体験を持って帰ることで、人生の進む方角が僅かにでも変わり、10kmも進めばもともとの到着予想地点からは大きくずれているかもしれない。
そんな期待を底上げしてくれる、とても大切な歌になりました。
終始、自分の話ばかりで申し訳ありません。
ネットプリントも書籍も、とてもぎっしりで贅沢なものをありがとうございます。
病めるときも健やかなるときも特になんでもないときも日常をしている短歌たちだな、と思っています。
/この歌を推薦した人 あしはら
https://twitter.com/asihara_pipe
#4
雪山を裂いて列車がゆくようにわたしがわたしの王であること
/ 安田茜 歌集『結晶質』 2023年,書肆侃侃房
はじめて見た瞬間に打たれて、それからずっと心を捉えられています。真っ白い山の谷間を進む列車がまぼろしのように浮かんで、それが、わたしはたったひとり わたしの王として生きているのだという絶対的な真理へと運ばれてゆく。うつくしくて、ゆるがなくて、けれど切実で。泣きたくなるぐらい好きな歌です。
/この歌を推薦した人 鈴木精良
#5
月夜、図書返却ポストの裏側のキリコの街を本すべりゆく
/ 鈴木加成太 歌集『うすがみの銀河』角川書店,2022
キリコとはイタリアの画家ジョルジョ・デ・キリコを指すらしい。その絵を調べてみれば、非現実的な、無感情な、無音な、そんな印象を受けた。
図書返却ポストに本を入れるときの、奥から聞こえるゴトン、という音が嫌だ。直前まで手のなかで温かな物語としてあったものが、たちまち「物質」に戻る感じがする。そして、その感覚はキリコの絵画の印象と相関する。
よく考えたら、本というのはモノと呼ぶには感情が宿りすぎて、むしろ不自然な存在に思う。元々はキリコの絵のような世界に存在していて、人の目や手に触れる時にだけ、寄り添って、柔らかなふりをしている…と考える方が自然な気がする。
優しくあることも、寄り添うことも、基本的には疲れることだ。誰かの手に再び選ばれ、その期待に応えなくてはならないときまで、ポストの奥の、キリコの街で、おやすみなさい。
/この歌を推薦した人 北谷雪
https://twitter.com/kitaya_misomiso
#6
いつまでも桃の天然水とかに騙されたまま生きていたいね
/ あの井 歌集『水引』私家版
「桃の天然水」に、桃は入っていないし、そもそもこの世に「天然水」なる水はなく、勝手に一定のプロセスで供給されたものをそのように呼称しているだけである。しかし、「桃の天然水」を飲んでいるとき、果物を摂取している幸福感があるし、天然水という響きから清涼感があるのだ。本当のことを暴露することが正義とされる世界だが、生命や身体にとってクリティカルな真実以外は、嘘や誇張があったとしても、軽い幸福感のあることに囲まれて生きていたい。( https://note.com/midiumdog/n/n1d5beeef1980 より)
/この歌を推薦した人 中森温泉
#7
いける、って君がわたしの手を奪い点滅走る走る大好き
/ あの井 NHK短歌(2021/2/21) 寺井龍哉選
リズムが気持ちよくて何度でも読めます。「大好き」へのスピード感がこちらにまでぐんと伝わります。
/この歌を推薦した人 ほのふわり
https://twitter.com/Honofuwari
#8
消毒のつづく世界に生き延びてコロナビールへライムを落とす
/ toron* 2023年6月7日 うたの日 題「ライム」
コロナビールの飲み方の定番としてカットしたライムを瓶の中に落として飲む。時期もコロナ感染症分類が5類に移行された時期でもあります。コロナ禍の3年に区切りをつけた時間と、コロナビールを一気に飲み干すよいな対比の世界観が素敵と思いました。手指に消毒をする所作と、ビール瓶にライムを搾る動作もうまく掛かっているのでしょう。
/この歌を推薦した人 有利
https://twitter.com/ashimotowomiru
#9
図書館の合わせ鏡のような棚ちいさき頃のわたしがいたり
/ toron* 個人誌『メテオール03』
一読して子供の頃の図書館に連れて行ってもらったような、懐かしい気持ちになりました。「合わせ鏡」には少しこわい童話のような印象を受けます。同じ大きさの棚が立ち並ぶ図書館の様子、あの独特の雰囲気はたしかに「合わせ鏡」という表現がぴったりに思えます。「ちいさき頃のわたし」は棚と棚のあいだに入ってしまえば、すっかり隠れてしまうのでしょう。きっとおそれることもなく、図書館という空間に、本に没頭しているのではないでしょうか。それを俯瞰して見る大人になった主体は、昔の自分を物語のなかの存在のように感じているのかもしれません。評者自身にも重ね合わせ読ませていただきました。とても好きな一首です。
/この歌を推薦した人 小金森まき
https://twitter.com/koganemorimaki
#10
週末の予定をきみに訊いてからもう貸切の胸の一角
/ toron* 2023/11/27 読売歌壇 俵万智選
読売新聞でこの歌を見た瞬間に好きすぎて私の胸の一角もこの歌でいっぱいになりました。
「きみの予定」をきいたことにより「胸の一角」には光が差し込んだのではないかと想像しました。思わずため息が出る美しい一首だと感じました。
/この歌を推薦した人 初夏みどり
https://twitter.com/___shoka____
#11
あまりにも俺のパンチが速いのでガスも電気も止まって見える
/ 髙橋線路 2023年11月22日 うたの日 題 「貧乏自慢短歌」
貧乏自慢短歌という強烈な題に投稿された強烈な作品。この部屋には参加しなかったが、どなたかのポストで流れてきてこの発想はすごい、と思った。あまりに整い過ぎていて、何度も思い返してしまう。
/この歌を推薦した人 岩倉曰
https://twitter.com/wakuwakuiwaku
#12
理想つてチューイングガムのなかにあるさはれないからよごれないまま
/ 朧 短歌誌「うたそら」第17号
〈理想〉と〈チューインガム〉との間に穿たれた深いギャップを、下句の警句めいたセンテンスが有機的に架橋している。〈ガム〉の〈なか〉という認識は第一に官能的で、それでいてインスタントな渇きのような感触もあり、〈さはれない〉という下句への説得力に寄与している。
/この歌を推薦した人 西鎮
https://twitter.com/xi_zhen_ivUT
#13
君を撮るためのカメラがあたたまる太腿のうえ 海まで遠い
/ 鈴木晴香 歌集『荻窪メリーゴーランド』2023年,太田出版
冒頭とラストに二度掲載されている歌です。同じ歌なのに一首目に読んだときと一冊読み終えてラストに読んだ時で歌の持つ印象がまったく違うものに読めたのが衝撃的でした。
/この歌を推薦した人 まつき
https://twitter.com/DubgVKCZzM25819
#14
なんどでも地球に傘を置き忘れそのたびに地球で買い直す
/ 鈴木晴香 結社誌「塔」2023年9月号
吉川宏志さんのXのポストで見かけて知りました。内容としては、何度も傘をどこかに置き忘れてしまうからそのたびに買い直す…というだけですが、地球規模というスケールの大きさが際立つ1首になっていて、作者の視点や世界の捉え方にびっくりする歌です。一読して好きになりました。
/この歌を推薦した人 星野珠青
#15
すばらしい魔法を3回解いてみて3回目には女しかいない
/ 里十井円 歌集『ハルピュイアイ』2023年,SPBSpublishing
https://twitter.com/000satoi000
様々な芸術や文芸には思いの強さ、信念の強さがいい形で表れるけれど、短歌も例に漏れずで、そんな短歌は抗い難い魅力がある。この短歌も紛れもなくそうだ。作中のモチーフひとつひとつが具体的に何を表しているのか、はっきりとした答えを私は持っていない。たとえば、連綿と続いてきた歴史にも、ぶあつい制度の剥がれる音にも、あるいはごくごく個人的なものモチーフのどれでもあり、どれでもないような気がする。わかりたいと思うのと同時に、同じかそれ以上の強さで気安くわかってはならないという予感もする。たぶん読み手としての私は緊張している。緊張しながら、それでいてすごく惹かれる。それは思いの強さによるものだと思う。例えばずっと繰り返し繰り返し考えたり傷ついたりした人だけが書ける言葉があって、そういった手触りを感じる。技巧や表現の奥から惹きつける力。結句「女しかいない」。この言い切り。否定形の力強さを持ちながらまっすぐと冷静で、でも何か存在への広大な肯定のようにも思えてくる。これは絶対に強く何かを信じていなければ出ないと思う。素晴らしい作品をありがとうございました。
/この歌を推薦した人 鳥さんの瞼
https://twitter.com/withoutSSRI
#16
「大逆転サヨナラ満塁ホームラン」毎朝鏡に向かい三回
/ 野畑寒之獣 <東京歌壇>2023年6月4日 特選
ホームランを撃つという行為は普段、滅多にないことです。どんなに優れた野球選手であっても、大逆転のサヨナラ満塁ホームランを打つことは難しいでしょう。
主体は自分を信じたいのだと思います。自分の人生を変える限りない可能性があって、なんとしてでも実行しなければいけない。裏返すと、そのくらい窮地に追い込まれている解釈も出来ます。
短歌には様々な機能がありますが、その一つに「塗り替える」機能があると思っています。自分を、他者を、現実を詠むことによって、自分の世界に「塗り替える」ことが出来ます。主体が自分を信じ、行動し、決意を込めて短歌を詠むその時、短歌もまた、主体の背中を押してくれるはずです。
自分もまた、この短歌に何度も何度も励まされました。人生には必ず、何かを必死に取り組まなければいけない時があります。誰かが必死に努力する姿を見て、自分も努力しようと思うその時……、短歌もまた、人の心にそっと存在し続けるのです。
/この歌を推薦した人 階田発春
https://twitter.com/orange_adabana_
#17
いつの日か廃墟が森になるとしてそこは名前を失うでしょう?
/ 野川りく 「遡上 あるいは三人の女」ねむらない樹vol.10 2023年(第五回笹井宏之賞永井祐賞)
https://twitter.com/nogawatomoki
連作「遡上 あるいは三人の女」を端的に表す一首と思えた。「都市」ではなく〈廃墟〉とすることで見える作中主体の認識はシビアだが、それでも自分のルーツに対する同一性の自覚と、一定以上のリスペクトを感じる。巨大な一首。
/この歌を推薦した人 西鎮
https://twitter.com/xi_zhen_ivUT
#18
ランドセルはもう見えなくて追いかけるわたしも忘れ物になりゆく
/ 野川りく 「二〇二三年上半期 自選四首」X(Twitter)2023年7月2日
https://twitter.com/nogawatomoki
我が子の忘れ物に気づき、慌てて追いかける親、という、一見コミカルでスピード感のある情景がまず浮かびます。続く下句で、親という存在は、子供の世界からいつか置いていかれる、忘れ物のように。という、親というものの切ない宿命が歌われているのではないでしょうか。
上句のスピード感を受けて読む下句は、すべては目まぐるしく移り変わっていく、子の背中を必死で追いかけるこの速さで……という、生き物の儚さや、その中での一瞬の強い輝きを感じさせてくれます気の遠くなるような、果てしない歌だと感じ、深く心に残りました。
一月に発表された歌のようですが、上半期の自選をなさっていた際に知ったため、挙げさせて頂きます。
/この歌を推薦した人 歌眠
#19
どうしてもまともな人になれなくて降る雪だけをおぼえて帰る
/ 木野葛紗 2015年01月26日 うたの日 題「降る」
https://twitter.com/blueregret
改めて評を書くにあたって、この歌が7年前につくられていたことに驚いた。まともな人になりたいという努力が、「降る雪だけをおぼえて帰る」という方向に空回りしている。いや、誰かに別れを告げられて、せめて雪のことだけは覚えていようとしているのか。魅力的なあいまいさが漂う。note「短歌インタビュー『私と短歌』」でとりあげた歌
/この歌を推薦した人 ぽっぷこーんじぇる
https://twitter.com/popcorngel
#20
心電図の波の終わりにぼくが見る海がきれいでありますように
/ 木下龍也 2023年9月4日 ひとひら言葉帳
(出典:歌集『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』2018年,ナナロク社)
心電図は確かに波みたいだと気づき、その先に海があるのなら、命の終わりも怖くないかもしれないと思えた。
/この歌を推薦した人 空灯
https://twitter.com/honya_soraakari
#21
痛くない。と我慢する子を褒めるとき握りつぶしてるやわらかい鳥
/ 毛糸 NHK短歌2023年8月号 山崎聡子選「悔やんでいること」佳作秀歌
https://twitter.com/ellaella_okka
転んだとき、注射したとき、小さい子なら痛がるのがむしろ自然なのに、我慢することが褒められるのはなぜなのだろう。
子どもは、無垢で社会の謎ルールなんて知らないまま、まさに「やわらかい鳥」のような状態で生まれてくる。でも小さいうちから、例えば痛くても大きな声で泣いたり騒いだりしてはいけない、みたいな社会のルールに順応していく。聞き分けのよいふるまいは社会で生きていくために不可欠であり、教えることは親にとっての責任という面もあるのかもしれない。しかし、そうやって聞き分けよくふるまうとき、何か無垢で自然なものが失われているのではないだろうか。主体は、親としての責任感と、子にもっともっとその子らしくいてほしいという思いとの間で葛藤を感じているのだろう。
その葛藤が、胸を打つ。
/この歌を推薦した人 てぃも
#22
あなたの書く鬱の字はきれいで完璧なクッキー缶のようにくるしい
/ 北谷雪 2023年10月25日 うたの日 題「鬱」
https://twitter.com/kitaya_misomiso
喩の秀逸さにまず目を奪われ、続いてあなたのこれまでの人生に思いを馳せた一首です。
鬱はパーツを多く組み合わせた字であり、きれいに書くのは難しいのですが、あなたはきれいに書けるのだなと胸を締め付けられました。下句の主体の感情から、あなたがその字をたくさん書いてきたことが想像されます(市役所等での助成のための申請や、病院での申し出などでしょうか)。そして主体があなたの苦しみを除いてあげたいと感じているのがひしひしと伝わります。
また韻律について、69577と破調です。上句を詰めて読むスピードを速めることで鬱の字の字体そのものの詰まりが音でも感じられます。下句は定型で締めくくり、更に結句を仮名にひらくことで、ゆっくりとその息苦しさを味わうことができます。これらがk音の連続により澱みなく読めるのが巧みです。
クッキー缶の美しい、楽しいイメージが良い意味で裏切られました。
/この歌を推薦した人 塩本抄
https://twitter.com/tankanosio
#23
追い風に母を探してわたしにも僅かばかりの純粋がある
/ 北谷雪 2023年10月15日 うたの日 題「粋」
https://twitter.com/kitaya_misomiso
ふとした瞬間に背中を押してくれる追い風は、優しく(ときに厳しく)その時に必要としている言葉や態度で背中を押してくれた母親に似ているのかもしれません。探して、とあることから現在の主体は物理的に母親とは距離があるのでしょう。でも、こうした何気ない瞬間に記憶のなかの母親と出会うとき、主体の心はいつでも大切にされていた子どもにもどることができる。かけてもらった愛情も、自分が母親に感じた愛しさも、自然と湧き出るように思い出せる。それは紛れもなく「純粋」なのだと思います。自分にもこういう瞬間はあったけれど、それをどう言葉で表現できるのだろうと思っていた私の胸にストンと落ちた短歌でした。まっしろなままではいられない大人の中にある純粋は希望のようでもあり、それもこの短歌が好きな理由です。
/この歌を推薦した人 睦月 雪花
https://twitter.com/mu_tsu_ki_s
#24
元気とはちがう力で生き延びる そうだね不死身の杉元佐一
/ 北山あさひ 歌集『崖にて』2020年,現代短歌社
漫画やアニメなどに登場するキャラを詠み込む歌は非常に難しいと思うのですが、この歌は無理なくキャラ名が使われていてとても印象に残っています。杉元は私の大好きなキャラなので、歌が持つ力強さを尚更深く感じられました。
/この歌を推薦した人 ナカムラロボ
https://twitter.com/nakamurarobot
#25
なでるふりして手についたみたらしのたれをわたしの羽で拭くなや
/ 白雨冬子 2023年11月20日 うたの日 題「鳥」
https://twitter.com/hakootokobook
うたの日で出会ってひと目ぼれしました。言葉の連なりが心地よく、さらにそれがひらがなにひらかれていることで柔らかさが増して、脳内で何度も暗誦してしまいます。くせになります。鳥が主体なところがかわいい。そして結句の「拭くなや」がすごくいい。「拭くなよ」ではなく「拭くなや」なところがいい。たしかに、串に刺さったみたらし団子を手を汚さずに食べるのは困難ですよね…。はたして鳥さんの羽でたれを拭いているのは誰なのか…たぶん飼い主ではないよな…と想像するのも楽しい一首です。
/この歌を推薦した人 小野りす
https://twitter.com/risukimidori
#26
あらがねの土煙立ち戦争は人の命を国有化する
/ 馬場昭徳 「かつて鋭く」 角川「短歌」2023年9月号
ロシア・ウクライナ戦争を題材とした連作から一首を抜き出しましたが、ご興味を持っていただけた方は、ぜひ12首の連作として読んでいただきたいと思います。社会詠に当たると思いますが、高齢の主体自身についての歌と交互に詠まれる構成が非常に秀逸です。言葉遣いも構成も巧みなため、私はこれを覚えてしばしば暗唱しておりますが、引用歌の国有化の部分はいつまでたっても冷静によむことができません。
/この歌を推薦した人 空飛ぶワッフル
https://twitter.com/flyingwaffling
#27
フィールドで「みんなのため」が出来なくて空の青さが薄れ始める
/ 徳道かづみ 2023年10月9日 コトバディア 題「運動・スポーツ」
https://twitter.com/peaceandbeautyt
スポーツ・運動のイベントというと、楽しげで活気に満ちているイメージだが、苦手な人にとっては苦痛・苦行以外の何物でもないだろう。それが団体競技で自分の出来がチーム全体の成績に響くとなると尚更だと思う。この歌は、まさにそういった状況下でやらかしてしまい、晴れた空の色さえ薄れてしまうような絶望感を感じている様子をよく表現してる。「みんなのため」をカッコで括っているのが、「なんで好きでもないのにこんな思いをしてまでやらなきゃいけないのか」という反発と、みんなの足を引っ張ってしまった申し訳なさ、罪悪感がないまぜになっていて秀逸だった。
/この歌を推薦した人 藤瀬こうたろー
#28
ゆびさきで点字は意味に、てのひらで触れれば意味は星空になる
点字という題材の福祉的な面だけではない、詩的な広がりがあり一目惚れしました。実際に「ゆびさきで」点字をなぞりたくなり、主体と同じように「てのひら」で星空の広がりを感じたくなります。この短歌に出会えてよかったです!とても好きです!
/この歌を推薦した人 神保一二三
https://twitter.com/jimbo_hifumi
ゆびさきで点字をなぞって読み取ってゆく。集中が途切れてふと手のひらを点字の上に置いたら、いつか見えていた頃の星空がそこに広がっていた。。何て静謐で美しいお歌なのでしょう。
いえ、もしかしたら主体は先天的に視覚障害を持っているのかもしれません。子供の頃に読んでもらった絵本に出てきた星空、お母さんが説明してくれた星空、恋人が教えてくれた星空、想像上の星空が手のひらの感触と繋がって一気に点字の本の上に広がっていったのかもしれません。
いつまでもいつまでも触れていたことでしょう。大好きなお歌でした。
/この歌を推薦した人 小野小乃々
https://twitter.com/aurora_konono
#30
花千本飲ます、あなたが指切りを破ってここに帰ってきたら
まず『造語短歌』という特殊なお題でなければ詠まれることはなかったんじゃないかなと思う。指切りげんまんをもじって詠まれたであろうこの歌は、たった一文字違いでありながら180°違う世界を見せてくれるところに感嘆しました。主体は『あなた』の帰る場所であるかのようで素敵です。
/この歌を推薦した人 外村ぽこ
https://twitter.com/outvillage_poco
造語短歌というお題で詠まれたもので、その美しさにはっとさせられた歌でした。針千本は罰するための約束ですが、花千本ははたして罰なのか祝福なのか、あるいはその両方なのか……それを読みきれないところも、主体の葛藤を感じるようで、甘く苦しくどこまでも耽美な世界観だと思いました。
藤井さんの歌はどれをとっても本当に美しく、好きなものが多いのですが、特に撃ち抜かれたように感じたこちらの歌を挙げさせて頂きます。
/この歌を推薦した人 歌眠
#32
低木の伸びて見えない家の夢 その木に白い花の咲くころ
/ 湯島はじめ 第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト 連作「エルダー」
https://twitter.com/hajime_yu11
下の句の「その木に白い花の咲くころ」ですごく掻き乱されました。時間が生で入ってきたような。この短歌が連作「エルダー」の最後の歌になりますが、読めば読むほど底の知れないすごみが増していきます。そこにしかないそこにない時間に読んでいる間だけは接近できる気がしています。
/この歌を推薦した人 池田竜男
https://twitter.com/tankadragonman
#33
ここからが夏のはじまりわたしだけ国境線をまたげないまま
/ 土井みほ ネットプリント『メープルとホーニヒvol.6』Midsummer 2023
https://twitter.com/mihodoi_de
万人に平等に巡りくる季節と、人々を分かつ国境線の対比。爽やかな歌だがこの対比に怖さも感じられる。
/この歌を推薦した人 茂泉朋子
https://twitter.com/tom_moizumi
#34
火がおこし火がほろぼすの 父の名がつづくばかりの歴史のように
/ 杜崎アオ X(twitter) 2023/10/10
https://twitter.com/morisaki_ao
家父長制の歴史、それと重なるように起こってきた人類の争いの歴史。これらのつながりを見事に表現した一首である。「ほろぼすの」という言い方で女性性を表しているのも高い表現力によるものだ。そういえば「火」と「父」の漢字の形も似ている。
/この歌を推薦した人 ~1000
https://twitter.com/Xa3hHv6nrNjb5gV
#35
お父さん、お父さんって呼ぶきみの指の向こうのあれが海だよ
/ 哲々 現代短歌アンソロジー 「短歌の夏2023」2023年9月5日
この歌が掲載された歌集「短歌の夏2023」には歌という形で様々な「夏」が寄せられた。その中で特選歌として選ばれたのが本歌だったのだが、これは一目で見て文句なしとしか言い様がなかった。僕も同じくらいの子がいるので、初めて海に連れて行った時の情景がまざまざと目に浮かんだ。指の向こうに、すなわち子の指の差す向こうに海があるという表現も親の目線から見た遠近法が冴えている。まさに「短歌の夏」にふさわしい、素晴らしい歌だった。
/この歌を推薦した人 藤瀬こうたろー
#36
花咲かぬはなみずきにも水をやるわたしの中の利己で咲く虹
/ 塚田みひろ 2023年08月20日うたの日 題『利己/利他』
うたの日の評でも生兵法で詳しく書いたのですが、ハナミズキはどちらかと言えば乾燥に強い木のようで、いくら水をやったところで咲かないようです。本当に咲かせたいなら肥料とか他のアプローチが必要。
私、ずっと水やりという行為が疑問で。室内ならともかく、庭なんか雨が降れば濡れるのだから、水をやる必要ってあるの?とか。人為的に植えたせいで気候に合わないから……って聞くと、じゃあわざわざ人の手で水をやらないと駄目な環境に連れてきてるの、動物だったらいっそ虐待じゃないですか?と思っていました。昔の話です。
だから、乾燥に強いハナミズキに水をやるという行為、二重に利己的に思えます。作者はそれを「わたしの中の利己」と言い当てます。それでもあくまで、結句には「虹」を持ってくる。わたしの利己は虹を作りました。あなたの能書きは何か生みましたか?そんなことを言われたような気にもなります。たぶん作者は自省しているだけで、そんな刺々しいことを考えてはいないように思いますが。
自省?ただ自分の心を見つめることを自省と言うのなら。
/この歌を推薦した人 姿煮
#37
夕焼けにやさしく橋は錆びついてわたしにたったひとりの母さん
/ 鳥さんの瞼 氷川短歌賞
https://twitter.com/withoutSSRI
読んだ瞬間、胸がきゅっとなりました。懐かしさや優しさを感じる一首ですが、一方で肯定し難い母との思い出もあるように感じました。それも含めて「たったひとりの母さん」なのだと思うと色々な感情が重なり胸が締め付けられました。大好きな一首です。
/この歌を推薦した人 初夏みどり
https://twitter.com/___shoka____
#38
残酷なまで正確な鳩時計だったら叩き壊してもよい
/ 朝田おきる 「短歌研究」2023年7月 短歌研究新人賞 最終選考通過作
https://twitter.com/Morning_Okilu
果たして、この鳩時計は本当に正確なのでしょうか。
「残酷なまで正確」であることが叩き壊される理由になっているのだとしたら、それは主体にとって正確とは言えないのではないでしょうか。そもそも「残酷なまで正確」とは何か? どのような状態が「正確」と言えるのか?
鳩時計を壊そうとする主体もまた、壊れていると詠むのが妥当でしょう。「正確」に残酷さを見出す主体は壊れていますが、果たして正常と異常の線引きはどこですべきでしょうか。ひょっとしたら、壊れているのはこれを読んでいる読み手の方だとしたら?
叩き壊れてしまった鳩時計はもう、時間を刻むことはありません。「残酷なまでに」ではなく「残酷なまで」であったり、「鳩時計」と「叩き壊す」のそれぞれの言葉が持つ世界観のギャップであったり、おそらく意図的な「ずれ」の技術が光りながら、読み手に違和感をつきつける、文句なしに怖く、素晴らしい短歌だと思いました。
/この歌を推薦した人 階田発春
https://twitter.com/orange_adabana_
#39
やさしさってなんなんだろう 空白に濡れじわのある本をあがなう
/ 仲内ひより ネットプリント「花汲める」
一見「空白に濡れじわのある本をあがなう」が、欠陥や短所を肯定するというやさしさの具体例であるように思えます。では、空白ではなく文字列を滲ませるような濡れじわがある場合、主体はその本を同じように手に取ったのでしょうか。紙についた濡れじわが、やさしさの境界線を問うてくるような重みを感じる一首です。独白のような初句・二句も味わい深いです。
/この歌を推薦した人 ツマモヨコ
https://twitter.com/moyoko_bungaku
#40
誰の子も可愛くなくて丘をゆく私は欠けた器だろうか
/ 中井スピカ 歌集『ネクタリン』2023年, 本阿弥書店
ネガティブに感じられる言葉が並ぶ歌ですが、「丘」という言葉があることでどこか爽やかな印象も受けます。自分が欠けているという寂しさとそれゆえの自由さ。自分に重なる部分もあり、心の深い場所に刺さってくる歌でした。
/この歌を推薦した人 ナカムラロボ
https://twitter.com/nakamurarobot
#41
きのうより月おおきいね きょねんよりママちいさいね そうね おやすみ
/ 鷹野しずか X(Twitter) 2023年10月27日
切り絵の絵本の一節のようで、見開きでページが浮かびました。
そしていつか親になったときは創作をはじめとした趣味を手放す必要がある、とどこかで思い込んでいた自分自身のことも解いてくれた短歌です。
/この歌を推薦した人 布武せいら
#42
ひとつとて詩歌なさざる夕にゆびアスパラガスのしらうをそろへ
/ 鷹枕可 2023年10月07日 短歌投稿サイトUtakata
https://twitter.com/QijKm6tsAxCH2gv
さいきん注目している歌人のお一人です。西洋美術、政治情勢、奇想などさまざまなテーマを扱っておられますが、とりあげたうたのような自然詠に特に惹かれるものがあります。独自の荘重なスタイルでよまれる様は、「バロック」と形容することがふさわしいように思います。
/この歌を推薦した人 ef
https://twitter.com/ef_utakata
#43
青空へ磔刑にせよ空襲のつばさ諸腕ひろげて晩夏
/ 鷹枕可 note 短歌連作,「灰と雨」
https://twitter.com/QijKm6tsAxCH2gv
鷹枕可さんの作品はどれも秀逸だが、特に優れた表現だと感じた。
/この歌を推薦した人 松嶋豊弐
https://twitter.com/MatsushimaToyo
#44
命から逃れられずに目をひらく海は今でも瘡蓋の海
/ 第二灯台守 「瘡蓋の海」tumblr「第二灯台日誌」
https://twitter.com/2nd_lightkeeper
連作「瘡蓋の海」の表題歌です。
死はいつでもそばにあり、偶然の連続で生きているだけであることを、逃げず怯えず静かに見つめている連作で何度も読んでしまいました。
海の波のかたちや色は確かに瘡蓋を想起します。瘡蓋のままであるから、触ればまた傷が開いてしまう。他の歌にある死の匂いや上句の命の話とも響きあい、この海は実際主体が見ている海でありながら、主体の希死念慮のような、何か重く暗いものも重なっているように感じられます。「今でも」が切なく、主体は本当は今ほどの不安や希死念慮のない人生を生きたいのだと思われました。しかし海を見るたびにやはり命(=生死)からは逃れられず、辛くなってしまうのですね。海のリフレインが、波のようにひたひたと主体の辛さを運んでくるのもたまらなくなりました。とても好きな歌です。
/この歌を推薦した人 塩本抄
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#45
大根にうすい十字の切りこみを どうかきみ、ながいながいスパンで
/ 蒼井杏 歌集『推しとショボンヌ』2023年,書肆侃侃房
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味を早く染み込ませるため、大根には切り込みを入れてしまうけれど、それは作る側の都合でしかありません。主体は、「きみ」が自分で自分に刃を入れることなく、また誰からも入れられることなく、どうか、ゆっくりと、じっくりと歩んでいってほしいと願っているのでしょう。それは成長を見守る眼差しかもしれませんし、これからの二人の関係性に思いを馳せているということかもしれません。一字空けと読点の生むリズムが、日常の場面から、ふと閃きのように唐突に願う行為へと至る様子を描写しており、大根を切る手元から、時間をかけて大切に育まれた未来へと、主体の心も大きく動いています。大切にしたい「きみ」への願いと、そう願うに至る一瞬のドラマ。もう、すごすぎて、そして短歌について悩んでいた自分にも言ってもらったようで、泣けました。
/この歌を推薦した人 杜崎ひらく
https://twitter.com/tsurun_kousei
#46
まぶしさに呼ばれたような、文庫本閉じれば川を横切るところ
/ 早月くら 2023年9月27日 うたの日 題『呼』
https://twitter.com/k_hayatsuki
電車で座って読んでいた文庫本に光が差したのか、ただなんとなくそんな気がしたのか、ふと本を閉じて顔を上げる。すると川の水面に陽が反射して、きらきら光っている。主体の動作、光景が鮮やかに再生されます。シーンだけでも充分素敵なのですが、この歌がすごいと思うのは、主体が顔を上げることと水面が光っていることが直接書かれていないところです。文庫本を閉じるという動作の描写だけで、主体と読者の目の前いっぱいに光をひろげてしまう、そこまで連れていってくれる感じが心地よくて好きです。頭の中で何度も唱えた一首です。
/この歌を推薦した人 あひる隊長
https://twitter.com/taicho_ahiru_tw
#47
まちがえて動物園にたどりつく来世のような冬の陽のなか
/ 早月くら 2023年11月12日 うたの日 題「来」
https://twitter.com/k_hayatsuki
道を間違えて、たどり着いた先は動物園だった。稀ではあるが、ありうる景だ。それは「来世」という修辞を添えられ、作中主体の心象のレンズのように作用していると思う。それにしても、動物園は、断然冬が似合う。
/この歌を推薦した人 西鎮
https://twitter.com/xi_zhen_ivUT
#48
芝居だよ、世界はずっと。いつかきみのまぶたが担う永遠の幕引き
/ 早月くら 2023年10月25日 うたの日 題「永」
https://twitter.com/k_hayatsuki
一目見た時から、何て優しく救いをくれる歌だろうと思いました。思い通りにならないことばかりの現実で、それでも生きていかなければならないと思い知る時、こんな風に誰かに声をかけてもらえたら心の重荷がきっとほどけるはずです。この世界が芝居だとして、そこで誰かによって割り振られた役をただこなすのではなく、芝居そのものを楽しむことも私たちには出来る。そんな舞台の終わりとして明るい幕引きがあると思えば、まぶたを閉じることを恐れる必要はないのかもしれません。
/この歌を推薦した人 飛和
#49
描(か)き終はるとはどのやうに何を終へることウォーターリリー遠くそのまま
/ 川野里子 川野里子「眩輝(グレア)」『短歌研究』2023年7月号
モネの代表作である『睡蓮』をモチーフに編まれた一連だが、その作品というよりは晩年のモネに深く触れて行こうとするような迫力があり、気圧されるまま読み切ってしまった二十首。その中でも、掲出歌は自己投影(もしくは自問自答)が強く出ているような気がして、心に残った。創作者の端くれとしても、差し向けられたこの問いは非常に重い。
作中に何度も登場する「ウォーターリリー」は韻律の揺らぎや繰り返しによって光陰がもたらされているように感じる。また、光と色彩の魔術師と呼ばれたモネを扱う矜持だろうか、多用される「光」という語が一切軽い響きになっていないことに心底圧倒され、ため息の出るほど美しい一連だった。未読の方は、ぜひ、読んでみてほしい。
/この歌を推薦した人 永井駿
https://twitter.com/longmemo_tanka
#50
死ぬまでを咲(ひら)いたままでウォーターリリー見つくすことをウォーターリリー
/ 川野里子 歌集『ウォーターリリー』短歌研究社,2023年
社会詠の多い一冊の中にときおり息継ぎのように混じるウォーターリリーのリフレインの歌。中でもこの一首は世界で起こっている出来事をちゃんと見て歌として残す作者自身だと感じました。
/この歌を推薦した人 まつき
https://twitter.com/DubgVKCZzM25819
#51
貴様とは宿敵としてではなくてマッチングアプリで出会いたかった
/ 川島薪 2023年9月1日うたの日 題『出』
https://twitter.com/ShortBeat57577
時代がかった口調から不意打ちで飛び出してくる「マッチングアプリ」というミスマッチな単語。お前マッチングアプリやってんのかよ!とツッコミながら思わず笑ってしまう可笑しみが魅力。
/この歌を推薦した人 T・G・ヤンデルセン
https://twitter.com/TGyandersen
#52
フォルテとは遠く離れてゆく友に「またね」と叫ぶくらいの強さ
/ 千葉聡 歌集『そこにある光と傷と忘れもの』2004年, 風媒社
ピアノを習っていた頃フォルテが強すぎるとよく注意されていました。音痴なのに声が大きいと合唱の時クラスメイトに文句を言われました。友達と別れる時も大きな声で「またね」と叫びます。そんな強さでもいいなと思える歌でした。
/この歌を推薦した人 新妻ネトラ
#53
いずれ火もデータ化されて雨降りのあなたに送るkibou.fireを
/ 折田日々希 かばん2021年12月号→ネットプリント「十二進法の短歌」
https://twitter.com/yoshiseiron
データ化されたからこそ「あなた」に希望の火を送って(贈って)心を温めてあげることができるんですね。情報社会も案外いいかもって思えました。火(始原の文明の象徴)とデータ(現在の文明の象徴)の組み合わせや、パンドラの箱を想起させる「希望」に神話性を感じます。
/この歌を推薦した人 今紺しだ
https://twitter.com/imaconsida
#54
汝しあらば汝しあらばといふ事のいひ古りたれど日に新しき
/ 石榑千亦 『現代短歌全集 第十四巻』 1930, 改造社
私事であるが、関東大震災100周年にあたって当時の震災詠を読んでnoteにまとめてきた。石榑千亦は同年春に妻を失い、震災では家を焼失している。連作中、「妻よ汝がすみしこの焼あとに家作りせし吾をよろこべ」「かかる時汝しあらばと又してもおもひつつもとな頭つかるる」と続いたあとの一首。荒地と化した街、独り身となった石榑の痛切な心情が伝わってくる。
(「関東大震災の短歌・補遺」https://note.com/popcorngel/n/n1a456910eae9 )
/この歌を推薦した人 ぽっぷこーんじぇる
https://twitter.com/popcorngel
#55
生れた生れた男の子なんだすぐ行かうおい自動車だおい(長子出生)
/ 八代東村 花岡謙二編『現代口語歌集』1928, 紅玉堂書店
およそ100年前の口語短歌。飛び跳ねるような喜びが何よりも率直に表されている。なお、『現代口語歌集』にはもう一首載っている。「硝子戸にあかるく朝の日はさして児はほのぼのとまだ眠つてる」。誕生を知った喜びは自由律で表し、目にした赤子の姿は定型に従って抒情的に表現する。短歌形式の見事な使い方である。
note「昔の口語短歌を読む――労働・呪詛・家族」で紹介した歌。
/この歌を推薦した人 ぽっぷこーんじぇる
https://twitter.com/popcorngel
#56
人間も光も水もおんなじで上から見るとわかる 火だけが
/ 石田犀 2023年短歌研究7月号 短歌研究新人賞候補作「エレベーター・ガール」
「人間、光、水」は同じであるが「火」だけはそれらに属さない異質なものとして詠まれているのが印象的でした。実際に火が燃えている感じがかなり鮮明に想像できてとても心に残った好きな一首です。
/この歌を推薦した人 初夏みどり
https://twitter.com/___shoka____
#57
浮かんでは消えゆく雲は永遠に沈黙してる神のふきだし
/ 石川真琴 毎日歌壇 水原紫苑・選 一席 2023年11月6日
https://twitter.com/shinkin_memo
雲を神のふきだしと捉える着眼点がまず秀逸です。発表時期および社会情勢から鑑みて、こちらは社会詠だろうと思われますが、「永遠に沈黙してる」という表現のみで、神のあり方の是非を直接的に問うてはおらず、読み手に委ねているところがまた魅力です。「浮かんでは消えゆく」という表現から、神は何かを言おうとしては口を噤んでしまうのかもしれません。私たちが大切な言葉を見逃さずに受け取れる日がくることを願います。
/この歌を推薦した人 飛和
#58
掠れている声で風邪だと気付かれてうざかった 初期のわたしの光
/ 青松輝 歌集『4』2023年,ナナロク社
初期のわたしの光を初恋と解釈しました。掠れた声で風邪だと気付かれてうざかったの「うざかった」に照れ隠しのような気持ちを感じ、余計に初恋の初々しさが伝わってくるようで歌集の中で最も好きな作品です。
/この歌を推薦した人 ぽっち
https://twitter.com/poppon0uta
#59
もっと好きになってください 星は降ってください 言葉がわからなくなってください
/ 青松輝 歌集『4』2323年,ナナロク社
青松さんの作品の中ではストレートでわかりやすく、ぐっと心を掴む短歌だと思います。
/この歌を推薦した人 ぽっち
https://twitter.com/poppon0uta
#60
分離したドレッシングを振りまぜるように交わる排卵の夜
/ 青糸りよ 2023年07月27日 うたの日 題「分」
https://twitter.com/beanta0326
今年うたの日でお見かけした中でいちばん衝撃だった歌だと思います。排卵の夜に交わるという合理性と、性愛との乖離を、分離したドレッシングで当てるというのは。一見意外な比喩にも思えるのですが、あまりに的確すぎて、ちょっとめまいがします。私は感銘を受けた歌を手帳に書きつけるのですが、なにも知らない人に見られたらちょっと説明に困るなと思いつつ書いてしましました。ちなみに、うたの日で見返したらこの日は評だけ書いて、選評の送信を忘れてしまったようですが、間違いなくハートをお送りしたかった一首です。
/この歌を推薦した人 空飛ぶワッフル
https://twitter.com/flyingwaffling
#61
ビッグエコー玉ねぎの輪を引き抜いてさみしい夜の衣からっぽ
/ 星谷麦 2023年11月26日 うたの日題「輪」
https://twitter.com/zukki04651
カラオケボックスは楽しいの代名詞のようであるが、この主体は寂しさをまとっています。一人で来たのか、はたまた仲間や同僚と来たのか。噛み切れないオニオンリングの玉ねぎを引っ張り出しそのまま残った衣におかしいやら虚しいやら、考えながら一人の夜を過ごしているのだろうかと思わされます。一緒に歌って盛り上げてあげたいな。
/この歌を推薦した人 ZENMI
#62
一生は長き風葬 夕光(ゆふかげ)を曳きてあかるき樹下帰りきぬ
/ 菅原百合絵 歌集『たましひの薄衣』 2023年,書肆侃侃房
https://twitter.com/lysblanc_yurie
人生の真理を感じさせられるとともに、印象派の絵画のように美しい歌だと思いました。すべての人は生きながらにして刻々と肉体の死に向かう運命にあるということを、「長き風葬」という表現で軽やかに包み、肯定してくれるようです。同時に「夕光」の語には重ねてきた人生の重みとそこに宿るまぶしさが感じられます。文語の作品で、登場する語彙もやや難解ですが、繰り返し口ずさみたくなる魅力があります。私にとって魂の傍らに置いておきたい一首です。
/この歌を推薦した人 飛和
#63
眠くなるのは食べたから食べたのはお腹がすいたからなのですが
/ 杉田菜穂 結社誌「塔」2023年8月号
好きな歌。つまるところ、腹が減って飯食ったから眠くなったと言ってるだけなのだが、あたかも論理的につめて有無を言わせないような口ぶりがおもしろい。ただ、特に大したことを言っていないのだ。そこがいい。 https://note.com/midiumdog/n/nbdb8ff39bc75
/この歌を推薦した人 中森温泉
#64
くす玉を割れないで退屈ですよきみが主役の毎日なのに
/ 水野ヒナ 「くす玉を割れないで」X(Twitter) 2023年12月7日
https://twitter.com/mizuiro_cake
50首連作のタイトルの元となっている歌。誰しもが誰しもの人生を主役として生きていることを踏まえて、(きみの人生は)きみが主役の毎日なので(私は)くす玉を割りたい、という主体の優しさとユーモアさに惹かれた。もしかしたら(「私」の人生においても)きみが主役、なのかもしれない。喜びを表現するにおいて、くす玉を割るという表現が出てくるところが好きだし、くす玉って多くても数年に1回割るようなものだけど多分この主体は毎日割ってくれるんだと思う、最高。「くす」と「屈」の押韻もリズムを作るのに機能していると感じた。
/この歌を推薦した人 笠原楓奏(ふーか)
https://twitter.com/Fuka_Kasahara
#65
仮にわたしがあなたを推しと呼ぶとして 残しておきたい謎肉のようなもの
/ 水沼朔太郎 ネットプリント「山川築⇄水沼朔太郎往復50首」
https://twitter.com/sakutaromznm
「謎肉のようなもの」という、なんの動物の肉なのか、そもそも本当に肉なのか分からない存在。「推し」という、恋愛感情なのか憧れなのかなんだかよく分からない存在。肉からの遠さと肉欲からの遠さがぴったりと同じ距離感に位置するようで、不思議な感慨を覚えました。大仰にも思える仮定と直喩が、食べるもの・他者というふたつの肉から徹底して読み手を遠ざけるようでとても好きです。
/この歌を推薦した人 ツマモヨコ
https://twitter.com/moyoko_bungaku
〜ここで半分です!まだまだあるよ〜
#66
ブルーアイズ俺は元気でやってます嘘です強がりましたドラゴン
/ 水口夏 X(Twitter) 2023年10月4日
ブルーアイズホワイトドラゴンって(たぶん)強いカードだと思うんですけど、「俺」は全然弱くて、でもそれを認められる素直さがあるのがいいですよね。何も言ってないのに嘘ですって言っちゃう、でもやっぱり嘘はついちゃうっていう、それがなんでだか知らないんだけどブルーアイズホワイトドラゴンという器の中で増幅されて出力されるのがおもしろかったです。
/この歌を推薦した人 ほのふわり
https://twitter.com/Honofuwari
#67
家系図の最後をかざるわたくしは進化の大樹の美しい枝
/ 水の眠り うたの日『 図 』 題:水の眠り
https://twitter.com/mizunonemuri1
「自分が末代だ!」というさみしさや哀しみをそのまま表現するのではなく、また自身を揶揄することもなく、ただ存在することの尊さを感じ、美しく力強い歌だと思いました。同じ境遇の身にあってお守りのように心にしまっています。ひとつの美しい枝として。
/この歌を推薦した人 新妻ネトラ
#68
ドングリをもう拾わない最近はポケットのない服ばかり着て
/ 真島朱火 2023年11月10日 うたの日 題「自由詠」
ドングリを拾わないことを「大人になったから」ではなく「ポケットのない服を着ているから」と表現したところがとても上手いと感じた。ホケットのある服を着ていたらドングリを拾うのか。いや、ドングリを拾わないための決意としてポケットのない服を着ているという読みもできる。どちらにしても、子どもではなくなった自分自身への強い気持ちが読み取れる。
「子ども」や「大人になった」といった分かりやすい言葉を使わずに作中主体の心情を表現している作品で、とても好き。
/この歌を推薦した人 峯ひろき
https://twitter.com/mine_tanka
#69
エブリデイ・ラッキー・ドッグ すれ違う犬の姿に四季があること
/ 岡本真帆 Webメディア・マトグロッソ〔イーストプレス〕落雷と祝福第10回
道で犬とすれ違うたびにこの歌が思い浮かんでいる。
「ラッキードッグ」が辞書に載る日も近いと思う。
/この歌を推薦した人 中森温泉
#70
待ち合わせしましょう各々の最寄りの海で すべてはつながってるから
/ 上坂あゆ美 2023年10月29日 ひとひら言葉帳
(出典:歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』2022年,書肆侃侃房)
「最寄りの海」という言葉から海に親しみを感じられる。実際には一緒にいなくても、誰かとつながっている、大いなる待ち合わせだ。
/この歌を推薦した人 空灯
https://twitter.com/honya_soraakari
#71
日を吸ひてややふくらみしわが胸を埋め尽くし咲く凌霄花
/ 小野りす 「羊水」2023年11月26日 X (Twitter)
https://twitter.com/risukimidori
連作「羊水」のうちの一首です。
手術により何らかの部位を摘出した主体の、術後の話が描かれています。部位や病名は明記されていないものの、こちらの歌でもしかして乳癌なのではないかと読みました。以前ほどの膨らみがないけれども、主体は陽を浴びて一瞬少しだけ本当に胸が膨らんだように感じたのでしょう。この感覚に宿る前向きさが、寧ろ読むごとに辛くなってきます。手術により状況は一歩前進し、前向きになれそうなところ、その胸を凌霄花の大きく垂れるが如く癌は覆い尽くしてゆく。再発か、またはその不安でしょうか。花そのもの美しさと「埋め尽くし咲く」の重く苦しい感覚が不思議とマッチして読み手に迫ってきます。そうして一瞬の、前を向くための光をすぐに遮られて、深い闇に落とされてしまうのです。柔らかな語り口で美しく絶望を歌われて、どうにも頭から離れませんでした。印象深い一首です。
/この歌を推薦した人 塩本抄
https://twitter.com/tankanosio
#72
公開後いっしょに観ようと囁けば予告は星のように流れる
/ 小泉キオ 右脳水星短歌会発行同人誌「光るかもね」収録連作「coming soon」より
https://twitter.com/kiokoizumitanka
一読してきれいで優しく、それでいて囁くという動作によりどこか官能性も感じさせる一首だと思いました。映画本編が始まる前の予告というのは好き嫌いが分かれるものだと思うのですが、この短歌の主体は予告を含めた映画そのものを楽しんでいるのが伝わってきます。そしておそらく、主体と映画を観に行った相手も同じように。けれど、「予告は星のように流れる」という下の句の美しい比喩は、その映画が公開されたとき二人の関係が続いているか分からない不確かさ故にどこか寂しさも内包しています。次々に切り替わる予告のスピードとこの先の二人の関係性を変えていく時の流れが重なるようで、一首全体に流れ星そのものが持つ希望とすこしの切なさを感じました。とても好きな短歌です。
/この歌を推薦した人 睦月 雪花
https://twitter.com/mu_tsu_ki_s
#73
たけのこに里がきのこに山があり帰る母星を持たないアポロ
/ 小泉キオ 2023年10月6日 うたの日 題「きのこの山/たけのこの里」
https://twitter.com/kiokoizumitanka
一読して、上手すぎる!と思いました。この難しいお題で、こんなに軽やかに詠めるものなのかと。何ヶ月経ってもお菓子コーナーでこの短歌を思い出します。シンプルで無駄がなく、その中で詩的で広くて、すごく好きです!
/この歌を推薦した人 神保一二三
https://twitter.com/jimbo_hifumi
#74
フックよりピーターパンの危うさに気づき少女の時代は終わる
/ 小泉キオ 2023/10/16 うたの日「危」
https://twitter.com/kiokoizumitanka
この歌の説得力、というか、作者の的確な比喩センスにくらくらしてしまう。
これが例えば「“少年“時代が終わる」だったら、“いつまでも子供みたいに夢見心地で生きてられないよね”という、ありていな人生教訓になっていた。
少女にとってのピーター、少女にとってのフックという対比があることで、この歌はたちまち男女の恋愛を想起させる。そして「男としてのピーターの危うさ」について考えさせられる。やわやわとした言葉とつぶらな瞳でウェンディたちを夜更けに連れ出すのは、悪意の有無を問わずともどうかと思います。そしてそんなピーターに唆されない自信は、無い。
/この歌を推薦した人 北谷雪
https://twitter.com/kitaya_misomiso
#75
太陽が遠ざかるから惑星をひとつ崩して手袋を編む
/ 小金森まき 2023年11月09日 うたの日 題「惑」
物理的に「太陽が遠ざかる」から冬が来るのでも寒くなるのでもないことを、私達は知識として知っています。でも、一読して頭に浮かんできたのは、寒い冬の日に温かい部屋の中で、誰かのために手袋を編む人の姿。遠くの太陽から、これまた遠くの(でも太陽よりは近くにありそうな)惑星に繋がって、手袋を編む手元まで自然な流れで視点を動かされます。そして、身近にある優しい惑星の存在に気づいて温かい気持ちになりました。
普段、あまり身近に意識することのない「太陽」や「惑星」が、「崩して」や「編む」という表現を通して、身近な「手袋」にきれいに繋がっていくところも素敵です。寒い冬の日に静かで暖かい世界があることを見せてくれたとても好きな歌です。
/この歌を推薦した人 橘 亜季
https://twitter.com/autumn_o_tcbn
#76
ダーリンとあなたを呼べばうめぼしが甘いみたいなかほをされたり
/ 小金森まき 2023年11月25日うたの日 題「ダーリン」
https://twitter.com/koganemorimaki
「ダーリン」と「うめぼし」の取り合わせ、うめぼしが甘いみたいな顔という比喩、全てが絶妙です。可愛らしいけれど飾らない主体像が思い浮かびます。とても好きです。
/この歌を推薦した人 吉村のぞみ
https://twitter.com/mechanobiru
#77
手探りで子らの寝相を確かめてパズルのピースみたいにねむる
/ 小金森まき NHK短歌2023年11月号 川野里子選「手」佳作秀歌
https://twitter.com/koganemorimaki
寝ている子を起こさないように、子どもたちの間でちょっと無理な姿勢で眠っている親の姿が浮かぶ。「パズルのピース」が、子どもたちの寝相の様子(きっと、ちょっと奔放な感じなのだろう)や、子どもたちへの温かなまなざしを感じさせて、そても素敵な比喩だ。
パズルというのは、凹凸のあるピースを組み合わせて、ひとつの絵を作り出す。一人ひとりには得意なことがあり、不得手なこともあるが、それを補い合って一つの共同体になる、考えてみればパズルって家族そのもののようだ。
/この歌を推薦した人 てぃも
#78
今日だってならび続けるすべり台UFOに乗り損ねたきみと
/ 初夢 X (witter)2023/2/2
https://twitter.com/tanjobi_123
すべり台で遊ぶ様子とは対照的な、下の句で明かされる「UFO」に乗り損ねてしまった「きみ」のミス。きみは少しドジなところがあったのかもしれないし、まだ地球に残って遊びたかったからわざと遅れて行ったのかもしれない。いずれにしても、何かが手遅れになった時でも、「私はずっとこの公園にいるからね」と声を掛けるような中立な主体が見た「きみ」への優しいまなざしにどこか胸を刺される気持ちになった。それでなんとなく、救われた気がする。
/この歌を推薦した人 ろうと
#79
「稲葉さん、サ、サイン、お、お願いします」そして書かせるウルトラソウル
/ 寺平じゅん 2023年8月2日 うたの日 題「葉」
https://twitter.com/jun_terahira
B'zの稲葉さんを目にして主体がサインをお願いすると思いきや、下の句で一緒に歌っているのがいいですね。これで歌わない人は相当すごい根性の人だと思います。リズム感も良く読んでいてとにかくたのしい一首です。
/この歌を推薦した人 つきひざ
https://twitter.com/northmount836
#80
励ましになれない日でもいないよりいた方がいい推しでありたい
/ 寺嶋由芙 「胎動短歌Collective vol.4」2023年11月
作者の方は実際にアイドルをされているということで自分のスタンスとしての心の声をそのまま歌にしたのだと読みました。その凛とした佇まいに強く惹かれたのと同時に、私にも「推し」と呼べる人が何人かいるのでその「推し」がこういうことを考えていてくれたらそれだけで推す元気が湧いてきます。「推し」と「推し」を推す人両方の明るい希望となる歌だと思っています。
/この歌を推薦した人 つきひざ
https://twitter.com/northmount836
#81
人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ
/ 寺山修司 『テーブルの上の荒野』(寺山修司詩集より)
何かを強く言い切ってしまうことは、人を惹きつける力強さを持つと同時に、言及したもの以外すべてを切り捨てる痛みを伴うように思います。
「人生はただ一問の質問にすぎぬ」と言い切ってしまう主体にとっての人生とは何だろう。人生は一問では語り尽くせないはず、と思いながらも、どこかで壮大な人生を簡潔な一問に閉じ込められたなら!という思いも捨てきれない。言えば、ではなく「書けば」という表現から、上の句が主体自身に向けられたどこか決意めいた言葉であるように感じます。そして、言い切ることの痛みを表すような「二月のかもめ」。本来なら秋には日本を後にする渡り鳥のかもめが二月にいるならそれは………と、たったの六文字から、ひとりぽつんと取り残されたかもめが浮かんできます。そしてそれは、他を切り捨てて1つの質問を選びとった(そうせざるを得なかった)主体の孤独さとぴったり合わさるように感じるのです。
/この歌を推薦した人 橘 亜季
https://twitter.com/autumn_o_tcbn
#82
眼鏡が似合わないんじゃない、似合わない眼鏡もあるだけだぜ委員長
/ 紫水街 2023年9月23日うたの日題「似合」
元々がダサいジャンパースカート等なのに更にしっかりと校則を守り着ている、そして大きすぎるフレームの眼鏡をかけていたりする生徒でしょうか。
台詞ではなく心内語かもしれませんが、委員長へ「だぜ」と呼びかける作中主体の爽やかさと、それを受けた委員長の光るレンズの奥にある意外にくっきり二重の瞳を読者に想像させます。
鳥原さみさんからの歌評に
結句「委員長」で、景色がパッとひろがる感覚がありました。
物語の世界に急に身を置いたような。
同時に、教室を出た社会にふと降ってくる声のようにも感じて、励まされます。
/鳥原さみ
とありますが、これを読んで特定の1人ではなくかつての委員長キャラだった人たちへのエールにもなるのか、とも思いました。
/この歌を推薦した人 寿司村マイク
https://twitter.com/xHksbNR4wv1wj8M
#83
獅子の顔、大蛇の右腕、跳ねる巨躯 鵺もキメラも力士のことか
/ 姿煮 2023年10月08日(日) うたの日 題『力士』
獅子や大蛇など羅列された恐ろしいものの落とし所としての「力士」がユーモラスでもあり、また相撲とはかつて神事であったことを考えると、力士という巨きく強い者への畏怖の念が的確に描きだされた歌であると言える。
/この歌を推薦した人 茂泉朋子
https://twitter.com/tom_moizumi
#84
風渡る わたしはもっと橋らしく手を伸ばしたり触れたりしたい
/ 姿煮 2023年11月03日うたの日 題「手」
歌全体のおおらかな雰囲気が大好きで、一発で心を掴まれました。
主体を人間以外の生き物に喩える歌はたくさんありますが、構造物として捉えるものは珍しいような気がします。「橋」という、人と人とを繋ぐための一歩引いた控えめな施設の選択もとても素敵ですし、その上で「手を伸ばしたり」「触れたり」というやさしいアプローチ、風が吹き抜ける景の軽やかさも加わってとても気持ちのいい歌だなと思います。
/この歌を推薦した人 星谷麦
https://twitter.com/zukki04651
#85
伊勢市立伊勢図書館の文学と言語の間に川流れをり
/ 山川築 2023年11月29日うたの日「図」
短歌において固有名詞は諸刃の剣だと思うのですが、この歌では伊勢市立伊勢図書館が本当に際立っています。それはひとえに下の句の「川」の一文字。この一文字が二重の意味を持っているからだと読みました。
まず、上の句で登場する図書館は、本が沢山並んだ即ち文字の川のような空間です。決して真新しくはないけれど、言い換えれば共感を強く得られる「川」の比喩だと思います。が、ここからがこの歌のすごいところだと思っていて、こちらの歌に登場する図書館は、伊勢市立伊勢図書館なのですよね。伊勢の川と言えば、誰もが五十鈴川を思い浮かべると思います。伊勢神宮内にも流れている歴史が長く神聖な川です。面白いのが、伊勢図書館と五十鈴川の実際の距離。調べたところ3kmあるので、決して近いとは言い難いのです。それでもこの歌を読むと、五十鈴川がぱっと浮かぶのは、ひとえに作者が自然と想起させられるように作っているからだと思います。
また、評をうたの日で書かせて頂いたあとに別に評を書かれていた方の「言語は800、文学は900」という言葉で、気づいたことを述べさせて頂きます。
五十鈴川は、本流と二流という二手に別れる川であるので、文学と言語という2つの日本十進分類法が示すものは、やはり五十鈴川であると確信を得ました。
読み終えた途端に五十鈴川の持つ静謐かつ神聖なイメージと、図書館という静けさを是とする空間とがぴったりと重なって、読み手に歴史の重さと歌の深さとに衝撃を与える素晴らしい歌でした。
また、上の句と下の句の距離感のお手本を見せて頂いた心地がして、評を書いていて背筋が伸びました。
/この歌を推薦した人 巣守たまご
https://twitter.com/sugomorigogogo
#86
屋上のビニールプールで幼な子と私たち世界の中心だった
/ 山口ヤスヨ 歌集『ただいま』2023年9月25日, SPBS
https://twitter.com/yasuyoyamayama
幼い時に家族みんなで寝てたみたいな懐かしさ、特別さ、親密な空気、安心感をこの歌から受けました。世界の中心は既に大きな存在がある表現だけど、屋上、ビニールプール、幼な子と重ねられると雲がないみたいに確かに歌われている情景が世界の中心と言っていいなと思えました。素晴らしい一首。
/この歌を推薦した人 真野陽太朗
https://twitter.com/kuroinogaboku
#87
青魚捌くその時に流れ出す魚が信じる神の讃美歌
/ 砂月七 2023年11月27日 毎日新聞朝刊 歌壇欄(加藤治郎・選)
https://twitter.com/chair_mono
ありふれたキッチンが神さまの解剖台になるなんて、こんなに素敵な歌は自分には生み出せない、と思わず感じてしまいました。いつか解剖台にのる時、わたしにとっての讃美歌はこの歌であってほしい、と思うぐらい好きな表現です。
/この歌を推薦した人 横井マリノ
#88
気づかないふりをするから会いにきてきみが足音だけになっても
/ 高田月光 第14回角川全国短歌大賞題詠部門 審査委員会特別賞(株式会社タビゼン提供)
https://twitter.com/v8QdMu8WOfj9vbi
人を愛することや命について考えるときいつもこの歌を思い出しています。「きみが足音だけ」になることは堪え難いかなしみですが、「会いにきて」くれる可能性は希望だと教えてくれます。
/この歌を推薦した人 アライアヤ
#89
寒がりのきみが紅茶をフウとしてそれが最初の秋風になる
/ 高田月光 2021年9月7日 うたの日 題『秋』
https://twitter.com/v8QdMu8WOfj9vbi
9月頃にTwitterで拝見し、なんて素敵な秋のはじまりなんだろうと一目惚れしました。「きみ」の行動やしぐさが新しい季節を連れてくる、主体の世界を「きみ」が無自覚に回している感じ。「寒がりのきみ」と主体とではきっと体感温度が違っていて、主体にとってはまだあたたかい紅茶を飲むような時期ではないのだろうけど、「きみ」が起こした最初の秋風を確かに二人は共有している。これから毎年秋のはじめに、この短歌を思い出すと思います。
/この歌を推薦した人 あひる隊長
https://twitter.com/taicho_ahiru_tw
#90
にんげんの形しているビスケット齧ると粉はこぼれやまざり
/ 江戸雪 「白濁の血」角川「短歌」2023年11月号
にんげんの形をしているビスケットというのは、ジンジャーマンクッキーのようなものだろうか。クッキーの粉がこぼれるのは齧った瞬間であり、「こぼれやまざり」というほど継続するものではないはず。「にんげん」も平仮名に開かれており、初句と結句が共鳴しているように読める。クッキーのことではなく、少しずつ老いていくことへの意識、人間という生き物の形は保ったまま内側からほどけてゆくことの止められなさを歌ったのだろうか。「こぼれやまざり」が頭から離れなくなって、今この瞬間自分自身も少しずつ何かを失くしているのだろうか、としみじみする一首。
/この歌を推薦した人 永井駿
https://twitter.com/longmemo_tanka
#91
運動会っぽい感じの小学校に駆け込んでゆく小学生ズ
/ 御殿山みなみ 歌集『ペトルスカ・サルド・ブムブム』2023年,私家版
この歌の好きなところはフォーカスのゆるさです。
運動会っぽい把握から確かめることはせず、どんな小学生なのか具体的な特徴にも触れることはしない。出合ったときの心が掴まれた一瞬の感覚をそのまま固めてしまう。
っぽい感じ、小学生ズという最低限の文字で、なにげない日常が彩りのあるスナップ写真のように切り取られていて、とても好き歌だと思いました。
/この歌を推薦した人 鈴木ベルキ
https://twitter.com/pandakirinkaba
#92
もっときれいにしようと思って傷つけたDVDの裏をなだめる
/ 絹川 柊佳 歌集『短歌になりたい』(2022年5月30日、短歌研究社)
目にした瞬間、あ、と思いました。
子供の頃、大切にしていたゲームのディスクの裏面を拭こうとして、さらに広範囲に傷をつけてしまったときのことを思い出しました。
多くの人が同じ体験をしたであろう、このシーンの切り取りにすっかりやられてしまいました。
そうすることでもっと傷つくということを知らなかったこと、よかれと思ってやってあげたことで取り返しがつかないことになったこと、「もっときれいにしようと思って」の言い訳 感、「なだめる」という言葉からの感じる加害者側の優位性であったり、〈普通に〉優しい人間が〈普通に〉持っている身勝手さにとても共感を覚えました。
同時に、加害者としての罪悪感であったり、自分の物を自分で傷付けてしまった後悔であったりが、自分の体験として思い起こされてなんとも痛い、まさに「心に残った短歌」でした。
コメントが無駄にくどくなってしまいました。申し訳ありません…
夏頃、書店で歌集を選んでいて、この歌がきっかけとなり購入しました。
レジで店員さんも「この歌集、いいですよね」と言っていました。
あらためて、私もすごくそう思います。
/この歌を推薦した人 あしはら
https://twitter.com/asihara_pipe
#93
あの人と最後に会った街で今やさしいひととパスタ食べてる
/ 金子竣 NHK短歌2023年6月号「待ち合わせ」
https://twitter.com/hitujinokioku
主体はやさしいひととパスタを食べている。好きな人と食べているとは言っていない。好きだけでは一緒にいられなくなった人と離れ、時を経たことで、やさしいひとと過ごす自分を受け入れられたのかなと思う。
心と人生の時間経過、勇気ある生きるための価値観の変化が表現されている。
「やさしいひと」が平仮名でたどたどしく、すこし他人行儀に感じるところも、まだ変化の途中である主体を感じ、切ない。
映画のような、親友の話を聞いたような、心に残る一首だった。
/この歌を推薦した人 瀬生ゆう子
#94
切るべき、と、促すひとに微笑んで保留ボタンのひかりを隠す
/ 桐島あお 歌集『保留音』私家版,2023年
https://twitter.com/natsunoyuugata
twitter、うたの日、各所で魅力的な歌を発表されている桐島あおさんの歌集から、表題となっている章の一首です。本歌集は、痛みをともなう題材を扱われていますが、それが作品へと昇華される過程で獲得された普遍性は、ひろい読者層へ訴えかけるものと思います。この歌集には「嘘」に関わる歌がたくさんでてきます。嘘のおおくは保留されたまま人に知られぬままひかり続けるのだ、ということを確認するように、私はなんどもこの歌集を読み返しています。「自生したむらさきの花ゆるされるつもりで吐いた嘘じゃなかった」
/この歌を推薦した人 空飛ぶワッフル
https://twitter.com/flyingwaffling
#95
つらいときはがき出すから生きててね、会いたがったらぼくを止めてね
/ 橋爪志保 2023年7月15日 ひとひら言葉帳
(出典:歌集『地上絵』2021年,書肆侃侃房)
https://twitter.com/rita_hassy47
「ぼく」がつらくても生きようとすること、相手にも生きていてほしいことが胸に迫る。「ぼく」が相手に会いたがる時は、はがきを出すことではどうしようもできないつらさの時なのだろうか。
/この歌を推薦した人 空灯
https://twitter.com/honya_soraakari
#96
どうしよう おなかがすいていないのに食べている白麺麭のふ か ふ か
/ 牛隆佑 歌集『鳥の跡、洞の音』2023年,私家版
おそらく自らのものと思われる食事への「どうしよう」という困惑が面白い歌です。結句のインパクトに目がいきますが、「白麺麭」の漢字表記も気になる点。見知ったはずの食べ物、ひいては世界への異物感が表れているのではないでしょうか。決して空腹ではないにも関わらず食べ物を口に運ぶとき、生ぬるい困惑とともに世界と自己との齟齬が顕在化する。その手触りはふかふかでなければならない、という必然性さえ感じる忘れられない一首です。
/この歌を推薦した人 ツマモヨコ
https://twitter.com/moyoko_bungaku
#97
がんばれと言われて育つ がんばれよ、ただ生きるより咲いてから死ね
/ 吉田岬 2023/9/1作者X(Twitter)
https://twitter.com/Nionomiyaotanka
ずっとこの短歌が忘れられなかった。咲いてから死ね。「頑張れ」は応援である一方、既に頑張りきっている人に言えば追い討ちにもなる危うい言葉だ。「鬱病には禁句」とも言われる。しかし実際、基本的に社会生活の多くは人々の「頑張」りで成り立っている部分は多く、どんな人にも多寡はあれど「頑張」りは求められていると思う。そしてその求められる量が適切とも限らない。頑張りの先にあるとされる「咲いて」いなければ役に立たない、または怠けていると見做されるようなことだってある。「ただ生きる」が尊いことは嘘ではなくても、現在社会はそれのみで成り立たない。ただ生きる以上を求められることの苦しさ。読んでいて、最後の「死ね」で胸にそのまま苦しさが結晶してしまうようだった。どうせ死ぬなら役に立て、と言われているような。そしてこの短歌では「がんばれと言われて"育つ"」。働くとか社会人とかいったよりももっと前、養育者や先生などに言われている若い、あるいは幼い主体が浮かび上がる。咲いてから死ね。そんな声が聞こえてくる主体にとって、頑張れはもはや「がんばれ」という苦しい音にすぎないのだと気づく。生まれながらにして社会や頑張りから私たちは逃げられなかったのかもしれない。素晴らしい作品をありがとうございました。
/この歌を推薦した人 鳥さんの瞼
https://twitter.com/withoutSSRI
#98
ぶどう港 ここで買えないものは無く、でもぜんぶ紫色だった
/ 丸田洋渡 note「Float/Fluorite」2023/10/8
https://twitter.com/qualia_of_sky
世界の構築が上手い。まず「ぶどう港」で読者はこの歌の立体像と色彩を認識することができる。そして「ここで買えないものは無く、でもぜんぶ紫色だった」で現実世界とは異なるルールの提示が完成している。”異なるルールの提示”は洋渡さんの歌を読み解くキーワードなのではないかと密かに思っている。
/この歌を推薦した人 ~1000
https://twitter.com/Xa3hHv6nrNjb5gV
#99
ボールペンひとつで君を救えると信じて綴る文字列がある
/ 笠原楓奏(ふーか〕 X(旧Twitter)
https://twitter.com/Fuka_Kasahara
自分に向けて詠んでくれているような寄り添い感と誰かを助けようとする力強さを感じた
/この歌を推薦した人 絵本好き
https://twitter.com/ehon_yoshimi
#100
君だけの何かになろうと思ってた 別に何にもなれなかったが
/ 芥川独り 短歌集『ひと、ひとり。』2023年,芥川独り
文学フリマで発売されていた本です。大切な人の何かになりたいと強く思う気持ちが、わかりやすく伝わって心に響きます。
/この歌を推薦した人 ぽっち
https://twitter.com/poppon0uta
#101
田舎風ふうふうふうと吹き冷ますいつか私もふるさとになる
/ 歌眠 X(Twitter)
サイゼリヤ短歌で一番心に刺さった歌です。音の並び、韻の踏み方もとても巧妙で技の光る作品なのに情景やそこに込められた思いがとても素朴なところが好きです。スープを飲む時に思い出してあたたかい気持ちになります。
/この歌を推薦した人 新妻ネトラ
#102
エックス社の男来たりてここはもう星新一の見ていた未来
/ 歌眠 粘菌歌会第64回 題「X」
企業の告知や話題になった投稿に連なる短文リプライ、泡沫アカウントにも届くスパム。使い慣れていたSNSがじわじわと変わる居心地の悪さも、かつて読みふけったショートショートと重なったことで少し面白おかしく前向きに捉えられるような気がしました。
/この歌を推薦した人 布武せいら
#103
ヤドカリは生きてゆくのだ世の中の貝殻すべてが事故物件でも
/ 歌眠 2023年1月5日 うたの日 題「事」
「世の中」「事故物件」などあまり明るい内容ではないのに、全体からは絵本みたいな可愛らしさと力強さを感じます。ヤドカリを比喩ではなく、どこかヤドカリ視点を感じることで、絵本のような読後感があるのかもしれません。とても好みです!
/この歌を推薦した人 神保一二三
https://twitter.com/jimbo_hifumi
#104
図書室で〈女〉の意味を集めたの お母さんわたしあなたを赦してあげる
/ 常田瑛子 現代歌人協会主催 第52回全国短歌大会 佳作(石川美南選)
https://twitter.com/slowbeat0116
初見で衝撃を受けました。
大幅な字余りが、溢れ出てくるものを表現したようですごい歌だと思います。
とにかく多くの人に読んで感じてほしいと思い、挙げさせてもらいました。
下の句は大幅な字余りでありながらも、577のように奇数音の短歌らしいリズムで読めるので、スッと言葉が入ってくる感じがします。
上の句と下の句の間が社会的文脈に任されている(と思いました)ところも、この歌の力を強めていると思いました。
/この歌を推薦した人 黒川かおる
https://twitter.com/oishiihojicha
#105
寝ていないひとの寝顔をながめつつ煉獄にふる雨をおもった
/ 永汐れい 毎日新聞2023.9.4朝刊 毎日歌壇 水原紫苑選歌欄
https://twitter.com/rei_nagashio
矛盾を孕む「寝ていないひとの寝顔」、静謐な下の句「煉獄にふる雨をおもった」が印象的な歌だ。
描写されている人物は寝ていないが、作中主体へ、寝ている時のそれと同じ表情を見せている。端的に言えば、横たわって目を閉じているのではないか。そして、煉獄は、既に死んでいる者が、死後の世界へ行くまでに通る異界である。そこに降っている雨は、しとしとと降り、雨音が静かな雨ではないかと想像した。だが、激しく打ち付ける雨の可能性もある。煉獄に降る雨のイメージは、作中主体の内的な視点に依拠していて、窺い知ることはできない。
しかし、覚醒へ戻らず、睡眠へは距離がある、その宙ぶらりんな道程を見つめる視線というのは、どのような心情であっても、穏やかなように思えるのだ。煉獄に降る雨が例え穏やかなものでなくても、描写された人物に対してその雨を想起する様子に、神聖さにまで昇華された静謐を感じるのである。
/この歌を推薦した人 石原健
https://twitter.com/archive_poem
#106
蚊にはわたしだけがいるのかもしれないし わたしには蚊がいて目をつむる
/ 永井祐 「いろんな移動手段」 (短歌研究 2023年10月号)
永井祐の短歌が好きだ。永井の短歌に初めて触れたのは東直子,穂村弘『しびれる短歌』の収録歌だったと記憶している。読了後間を置かず「高校楽しくなかった人と高校すごく楽しかった人が10年後エアホッケーをするかもしれない/永井祐『広い世界と2や7と8』2020年,左右社」という短歌を読んで、その当たり前さに高校生の頃の自分が救われたような気持ちになった。以来、私は永井のファンだ。
そんな永井の掲出歌、どうしてこの文体で永井は永井たるのだろうか、ということを一読してからずっと考えていた。視界の閉塞性というか「見えていないこと」や「見ようとしていること」の強い意識がきっとあって、それを前後の時間軸も含めた観察で終わらせる。見えないものをあまり詩的に描かない、その視野の「しかたなさ」が変え難い共通言語だから、すとんと腑に落ちるし、模倣できないのでは、と今はなんとなく思う。この歌もそういう歌で、あなたに見えるかどうかはわからないがわたしには見えている、ということの確かさだけが渡される。それがなんだか嬉しくて、ああ、こういう歌はこれから先も自分には作れないな、と分かる。でも、作れなくていいんだな、ということも同時に思う。
早く、第三歌集が読みたい。
/この歌を推薦した人 永井駿
https://twitter.com/longmemo_tanka
#107
改憲を説く為政者をじいと見る祖母はちいさな骨となっても
/ 永井駿 「水際に立つ」(角川「短歌」2023年11月号 第69回角川短歌賞佳作)
https://twitter.com/longmemo_tanka
五十首連作の中盤に置かれた一首です。「祖母」という言葉が出てくる短歌は他に二首あり、どちらも思慕が伝わる歌です。取り上げた一首からはテレビに登場する為政者を、祖母の遺影が見つめているというような具体的な景が立ち上がります。そしてさらに生前の祖母が戦争を危惧していたこと、それを孫である主体が受け継ぐように歌われています。「ちいさな骨となっても」という表現がとても印象的です。燃えてちいさな骨となってもなお残っている(主体がそう感じている)祖母の意思、それを汲む主体の意志、過去と現在と未来が内包されている短歌だと思いました。
/この歌を推薦した人 小金森まき
https://twitter.com/koganemorimaki
#108
死んでから魔力に目覚めいつまでも墓前の花が枯れないでいる
/ 雲海ギャルズ 連作『魔法かけたげる』
https://twitter.com/unkai_gals
死んでから魔力に目覚めたのは
① 死んだ人
② 残された人
のどちらだと思いますか??
上記①、②のどちらにおいても、誰かの死をもって魔力に目覚めるという視点が好きです。いつまでも墓前の花を枯れさせないことに魔力が発揮されているというのも素敵だと思いました。
写真に花と一緒に写っているから枯れないということなんじゃないか?花が枯れないのは「ひっきりなしにお墓参りに訪れる人がいるからいつも新しい花がある」ということで、亡くなった人の惹きつける力を魔力と呼んでいるんじゃないか?墓前で永遠に生かされる花ってなにかの比喩なんじゃないか?
などなど、状況の説明は十分されているのに、想像の余地がたくさんある歌だと思います。
個人的には「魔力に目覚めた者は敵と戦わなければならない」という偏見を取り除いてくれた、ありがたい一首でもあります。
/この歌を推薦した人 深山睦美
https://twitter.com/57577_77575
#109
生前は雪であったとふいに知るたわむれに鍵盤にふれれば
/ 雨谷詩穂 2023年11月27日 毎日新聞朝刊 歌壇欄(水谷紫苑・選)
https://twitter.com/amenoya222
「ふいに知る」という言葉がまるで天啓のようで、「雪」と「たわむれに」「鍵盤」を並べたときの静、動の対比もたいへんうつくしく思います。とても大切で、大好きな歌です。
/この歌を推薦した人 横井マリノ
#110
いまはまだ平地のような十歳のもうすぐ見えなくなるあばら骨
/ 一ノ瀬美郷 「母娘」 (同人誌「西瓜」第10号 ともに欄)
https://twitter.com/kimono_misato
一首のなかに娘の現在と未来が過不足なく描写されており、その点に敢えて言い足す必要はないように思います。しかし、娘の未来を歌っているのに明るさが乏しく、むしろ漂うほの暗さはなんなのだろうと、一首読むとすこし疑問に思います。実は連作として、あばら骨は主体の過去と現在のファクターでもあるのです。母娘の関係にあくまで通底する喪失の予感。自分と娘を詠んでいて、これだけ愛情を感じるのに、こんなにも冷たさをも残せるのかと衝撃的な連作でした。一首めとして、他の四首との響きあいが見事です。
/この歌を推薦した人 姿煮
#111
死ぬまでが暇だな 歌をうたひたい花の名前をもつと知りたい
/ 逢坂みずき 歌集『虹を見つける達人』2020年,本の森
『論語』に「詠而帰」という一節があります。以下、かなり大雑把な要約です。
「孔子が4人の弟子に抱負を聞いたところ、3人はあれこれ立派なことを言ったのに対し、ただ1人、点という弟子は『人を引き連れて水浴びして舞を見て詩を詠じて帰りたい』というようなことを言った。孔子はこれに賛成した。」
孔子の思想や論語の構成には立ち入ったことが言えないのですが、心に残ったのを覚えています。「歌をうたひたい花の名前をもつと知りたい」は点の考えに近い境地でしょう。
「人生は死ぬまでの暇潰し」なんて言葉が人の口に上るようになってしばらく経ちました。これ、ひろゆきやホリエモンが言っているのが有名なようですが、調べてみると元はパスカルの言葉なんですね。(原典にはあたってません。許して……)。
「死ぬまでが暇だな」の威力にいちどずっしりとやられそうになりますが、この歌はもっと積極的で明るい部分までを共有してくれています。歌をうたう、花の名前を覚える、そうした暇潰しの中身は、「暇」という語のネガティブなイメージを払拭して、何事もない明るい人生を想起させます。
25歳くらいの頃、このまま毎日忙しく仕事に追われて結婚もせず過ごしたら、この先の人生には何のイベントもないことに気づいて愕然としました。でも、そういう何事も起こらない人生の「暇」という大きな容器に何を入れるかは、自分で決めることが出来るのですね。重くとらえて立ち止まらず、だからと言って投げ遣りになるのでもなく、自分が入れたいものでいっぱいにした人生。素敵ですね。「死ぬまでが暇だな」って、めちゃくちゃ明るい言葉なんだ。
パスカルも孔子も逢坂さんも、そういうことで良かったでしょうか。
/この歌を推薦した人 姿煮
#112
月みたく生きててほしい、生きてれば、まるくても欠けててもいいから
/ 阿部 啓 合同誌『ひつじ雲捕獲作戦』2023年11月11日
https://twitter.com/output_fall
2つの読点にインパクトあって、大事な人に大切なメッセージを、あなたには生きていてほしいを伝えるのに言葉を選んでいる感じがいいなと思いました。まるくても欠けててもいいなら生きていけるかもしれない。音の響きにも統一感があってやわらかい一首です
/この歌を推薦した人 真野陽太朗
https://twitter.com/kuroinogaboku
#113
よく話すようになったね 伝えたい気持ちが口の動きになるね
/ ゆらり 連作「今は幼ききみたちよ」
https://twitter.com/osmanthus_107
何気ない子どもの成長を切り取った一首でありながら、その光景の微笑ましさに崩れそうになった。保育園から帰った時の今にも話したいことで溢れる口元の、「言葉」がひかって見える瞬間。ああ、そうやってこの子も世界を解読する「すべ」を身につけていくのだと、そしてそんな風にかつては私も目を光らせながら親に、先生に、友達に語りかけたのだと思うと温かい気持ちでいっぱいになった。待ちきれないもどかしさが、口の動きになるということ。とても優しくて、忘れられない歌。
/この歌を推薦した人 ろうと
#114
ひらがなで見ること多いおなまえの漢字は少し別人のよう
/ ゆらり 連作「今は幼ききみたちよ」
https://twitter.com/osmanthus_107
この一定の狭さの中でしか感じうることのできない感覚を、歌にしてくれて本当にありがとうございます。とても分かります、と思ったのが読んで最初の感想でした。というのも連作として詠まれたこの一首は恐らく主体が「ほいくえんのせんせい」であり、先生であるからこそ、受け持つ子どもの名前を普段呼ぶ時の「ひらがな」で発している感覚と、その子の名前を名簿上で「漢字」表記されているのを見た時の乖離という細やかすぎる表現があまりにも良かったからです。打ちのめされました。
/この歌を推薦した人 ろうと
#115
にんげんがひとをやいたと知った日に平和はただの言葉をやめた
/ やまめ 2023年8月6日 うたの日題「原爆忌」
この歌を読んだ瞬間に今も紛争が続いている中で言葉はなんて無力なんだろう、と歌人である前にひとりの言葉に携わるものとして衝撃を受けました。しかし下の句の「平和はただの言葉をやめた」に平和が概念として人々の心に沁み入る希望となるようにも感じました。私も言葉に携わるものとして言葉の可能性を信じてみたい。短歌にかかわらず言葉で躓いた時に折にふれて思い出す一首です。
/この歌を推薦した人 つきひざ
https://twitter.com/northmount836
#116
やっさ舁(か)くまわし姿に惚れたけど祭り過ぎたらただのオッサン
/ やっさ嘉久造 U5H短歌
勇壮に始まりつつも、終わりが微笑ましい。
/この歌を推薦した人 松嶋豊弐
https://twitter.com/MatsushimaToyo
#117
心配はいらない
と言う母と立つ
キッチン
遺言みたいな
レシピ
/ まちりこ X(twitter) 2023年10月25日
まず作者が伝えようと思ったことが上手くまとめられていて、こちらにきちんと伝わってくる。一見この歌は素朴なつくりに見えるが実はかなり句跨り・句割れが多い。しかし多行書きによりそのことをすぐには意識させず逆に「キッチン」「レシピ」の名詞によって句を終えているように見せることできれいに仕上がっている。
/この歌を推薦した人 ~1000
https://twitter.com/Xa3hHv6nrNjb5gV
#118
実景は決して詠まない僕だから今日が歌になることはない
/ ハリお 2023/7/19 X(旧Twitter)
うたの日ではSFのような、ショート・ショートのような31音の虚構世界を生み出す作者が、人生の岐路で詠んだ飾りのない歌だ。とはいえ、歌だけでは彼の人生に何が起きたのかわからないという不親切さ。でも、きっとこれ以上の言葉で表せば陳腐になってしまい、あっという間にタイムラインのなかで消費されてしまうだろう。SNSのなかであえて「伝えない」ことで、守られている大切なものがある。作者らしい、最高にかっこいいアイロニーが効いている。(幸あれ!)
/この歌を推薦した人 北谷雪
https://twitter.com/kitaya_misomiso
#119
今幼馴染が彼女になりました石焼き芋をふたつください
/ ハリお 2023年11月16日(木) 題 『 石焼き芋 』 うたの日
句またがりで始まるのにすっと読める自然な言葉の流れがよい。両思いになった瞬間が素直に描かれていて、思わず石焼き芋屋さんに言ってしまう様子が可愛らしい。
/この歌を推薦した人 茂泉朋子
https://twitter.com/tom_moizumi
#120
てかウチら、でかい花火を打ち上げて軌跡も見ずに家に帰らね?
/ ねむけ X(twitter)2023年8月7日 21:42
自由奔放で、超カワイイ!!!!です。
向こう見ずで無鉄砲な感じとか、「打ち上げ」た後、結果どころか軌跡すら見届けなくていいんだ?という大胆さとか豪快さとか無責任さとか、すっごく強いなーと思います。
またその提案に対して、「でかい花火」ってなに?とか、何のために?とかの些細なことを全部ぶっ飛ばして、「それな!」ときらきら笑うつよつよな二人組が見えます。まぶしい。
上げてもいいし、上げなくてもいい。
とても自由でとても憧れます。
/この歌を推薦した人 あしはら
https://twitter.com/asihara_pipe
#121
劇場の明かりは消えて王女から少女に戻つてゆくバレリーナ
/ てぃも 2023年08月19日 うたの日 題「バレ」
リボンがほどけてゆくような、ゆったりとしてうつくしい歌だと思いました。「劇場の明かりは消えて」ということは、終演後、客席にはもう誰もいないのでしょう。もしかしたら片付けも終わり、スタッフもいなくなったところかもしれません。きっと「少女」は踊り切ったあともしばらく、演じていた「王女」の自分が残っていたのではないでしょうか。明かりが消えたあとの歌ではありますが、「王女」を演じているバレエのシーンまで思い浮かんできます。観客の拍手に包まれ、お辞儀をし、幕が閉じて観客が席を立ち、やがて劇場の明かりが消える。そしてシンデレラの魔法が解けるように、「少女」に戻っていつもの生活をするのでしょう。素敵なイメージを想起させてくれる、大好きな一首です。
/この歌を推薦した人 小金森まき
https://twitter.com/koganemorimaki
#122
ダイレクトメールはふたりだけの庭 空き家になっている豪邸の
/ ただのり 「インターネットにいるみたい」X(twitter)2023年12月1日
https://twitter.com/norider0914
𝕏(旧ツイッター)発表の8首連作の5首目。
学割のカラオケボックス、や初めて買った軽自動車でのデート、など恋愛の中で二人きりになりたいという欲は世に普遍的ですしまたそれは歳を重ねた二人にしても同じだと思います。
ネット上の恋、は熱量の非対称が生じることもあるでしょう。そのDMだけで二人きり進むそれを空き家の豪邸での逢瀬に喩えている。
ノイズのない純粋さに嵌った作中主体が空き家の豪邸で逢っていた相手は、実は存在の不確かな幻だったのかも、と考えさせられました。
/この歌を推薦した人 寿司村マイク
https://twitter.com/xHksbNR4wv1wj8M
#123
M-1の出囃子かけてマンションの共有階段下る月曜
/ タカノリ・タカノ 歌集『タンカ タカノリ・タカノノタンカ』タカノリ・タカノ(SPBS)2023年9月25日
一週間の始まりに勇気とユーモアと期待感と勢いをつけてくれる普段使い出来そうな一首。
/この歌を推薦した人 真野陽太朗
https://twitter.com/kuroinogaboku
#124
我が生まれ柳条湖事件の十日あと いくさは勝った勝ったで十五年
/ ジョージ 2023年10月09日 短歌投稿サイトUtakata
今年92歳でネット短歌をはじめられたという方の一首。自己紹介のみで真偽を確かめるすべはなくとも、このうたを含めよまれているうたの作風は、ながらくうたをよまれるなかで磨かれてきたとおもわれる素朴な風合いを有していると感じる。自分ははじめてまだ5年ほどで、このような境涯にいたれるかはわからないが、目指したいものだとは思う。
/この歌を推薦した人 ef
https://twitter.com/ef_utakata
#125
黒板の字を消す指を見てしまう先生これが「あこがれ」ですか
/ くぼたむすぶ 2023年11月16日 コトバディア 題「あこがれ」
https://twitter.com/yutonocamera
学生時代の、まだ恋というものが実感として湧かない時代の異性の先生に対する慕情を情緒たっぷりに表現している。慕情といっても漠然としていて、詠み手は、歌の主体を「恋」すら経験したことのない年代の子を想定していると思う。その年代の子が、成熟した大人である先生に対して、まるで授業で分からない問題を質問するかのように先生に問いかける形式をとっているところにこの歌の魅力があると感じる。
/この歌を推薦した人 藤瀬こうたろー
#126
どこからか風が吹いてる君がまだ生きていたらと思っただけさ
/ キニー・コーヴェル 2023/9/13 X(Twitter)
https://twitter.com/kinee_tapioka
叙情的でありながらなんてさわやか、端正な短歌なんだろう。さらっと理解させながら心に届く歌だ。死別でも生き別れでも、恐らくはもう会えない(会わない)君についての主体のストレートな独白。「風」というイメージから個人的には死別と読んだが、決定的に断定していないフラットさが良い。別れをふいに柔らかく思い出す、という普遍的な景に合っている。使っている言葉がすべてごくごくシンプルで、ゆえに読者は自然に色んなものを代入して読むことができるのだと思う。その中で目立つのが最後の結びの「さ」。最後にほんの少しだけ主体の匂いがたち上ってくるような軽妙さがある。「だ」よりも軽やかで、少し寂しい。素直な心情を言葉にした僅かな照れ隠しのようにも思えるし、すこしセリフのような形に浮き上がることで、別れ(あるいは喪失)への思慕の特別さも感じられる。主体は思った「だけ」ではないのかもな、とも思う。別れを詠みながらも爽やかで、悲しさと明るさとを内包しているこの歌は、読む人によって思い起こす色が違うのだろうなと思う。なんだかそのことが嬉しくさえ感じる。素晴らしい作品をありがとうございました。
/この歌を推薦した人 鳥さんの瞼
https://twitter.com/withoutSSRI
#127
おせち おせち おせ チェレンコフ放射光 だった世界線
/ かに江 2023年11月12日 短歌投稿サイトUtakata
構造がはっきりしている短歌も好きなのですが、それ単体で短歌を破壊しようとしていく短歌も好きです。ことばを断片的にならべて、そこから読み手がイメージを再構築するための足場を空中に浮かべる。その配置がアクロバティックであればあるほど面白いが、読み手が読みをあきらめてしまう可能性と表裏一体になっている。このうたは結びの「だった世界線」が効果的に使われていて、それより前の表現の連続を読み手に想像させるための助けになっていると感じました。
/この歌を推薦した人 ef
https://twitter.com/ef_utakata
#128
ペル ア モ ラ テ ユムあなたの唇も物語を織る機(はた)になるのよ
/ えふぇ 2023年11月07日 うたの日 題「造語短歌」
https://twitter.com/sonohi_1nichi
存在しない国の言語というのがもう魅力的。加えて、「ペル ア モ ラ テ ユム」を1単語ではなく文章のように組み込んでいるのも作品としての美しさを高めている点だと思う。初句の「ペル ア モ ラ」で留めずに「テ ユム」と続けたことから、「I love you.」ではなく「I want to give you love.」とするような複雑さを感じられ、作品に奥行きが生まれている。好き。
/この歌を推薦した人 峯ひろき
https://twitter.com/mine_tanka
#129
どれほどの冷たさだろう人肌をおぼえたあとの冬のブランコ
/ うすいまゆ うたの日『 冬 』
恋をして、恋を失ったから感じる人肌のない冷たさ。恋をしなければ知らなかったはずの冷たさ。公園のブランコの情景に重ね合わせることで主体の寂しさがひしひしと伝わってきました。
/この歌を推薦した人 まつき
https://twitter.com/DubgVKCZzM25819
#130
悲しいと君は決まってこの街のブレイカー全部落としてしまう
/ いいやまつかさ X(旧twitter)
https://twitter.com/Freshly_Pudding
明けない夜はない、ということがたまらなく苦しい時があります。
新しい一日が始まってしまうことが、どうしても受け入れられない時もあります。ずっと夜のままでいい、朝なんて来てほしくない、そう思う日もあるでしょう。
街のブレイカーを全て落としてしまう「君」はとてもラディカルです。それぐらい悲しかったのでしょう。人の営みの明かりは華やかですが、どうしても光が受け入れられない時もあります。ブレイカーを落としてしまえば何も見えなくなるし、暗闇は世界を変えてしまうほどの悲しみにそっと寄り添うでしょう。そんな「君」を肯定も否定もせず、しかし、どこかやさしく見つめる主体は、ロマンティックですらあります。真っ暗な世界の中「君」と主体だけが存在する、閉鎖的ようで開かれた究極の世界に心を惹かれました。とても美しい短歌です。
/この歌を推薦した人 階田発春
https://twitter.com/orange_adabana_
#131
黒板の相合傘を消したときかすかに架かる白だけの虹
/ あひる隊長 2023年4月12日うたの日 題『相』
https://twitter.com/taicho_ahiru_tw
雨がやんで傘が不要になった時に架かる虹は、通常ならば晴れやかな未来の象徴だが、この「白だけの虹」には、ぼんやりとした名残惜しさが滲んでいる。ありありと目に浮かぶリアルな景と、ひねりのある心情の重ね合わせ方が相まって実に味のある一首。
/この歌を推薦した人 T・G・ヤンデルセン
最後までお読みくださりありがとうございます🙇♀️ そして、推薦していただいたみなさまもありがとうございます。今回からすべての歌にコメントをつけるように変更しましたが、たくさんの歌が集まってうれしかったです。
ノミネートされた短歌やコメントへの感想は Twitter #今年の短歌2023 もお使いくださいませ。
来年もみなさまにとって良い歌との出会いのある年になりますように🙏
また次回の参加をお待ちしております。