今年の短歌
2022下半期
#1
ペンギンは動物園の面接を終えて明日は水族館に
/ 鴨南蛮 2022年8月6日筋肉短歌会「水族館」
https://twitter.com/kamo_to_negi
動物園と水族館、それぞれの志望動機を用意するペンギンを想像したら、健気で愛らしいなと思いました。これが人間だったら、その人の将来がかかっている場面ですからそんな風には思えないでしょう。主体をペンギンにすれば、世の中の大体の物事を穏やかに見られる気がします。
/この歌を推薦した人 三浦くもり
https://twitter.com/miurakumori
#2
雨だよ、と告げてあなたに降りかかるわたしに雨の才能ありぬ
/ 大森静佳 歌集『ヘクタール』 2022年 文藝春秋
「雨だよ」という他愛ない会話から主客が転回する美しさを見た気がしました。
/この歌を推薦した人 六厩めれう
https://twitter.com/mereumumai
#3
からだのなかを暗いとおもったことがない 風に痙攣する白木蓮
/ 大森静佳 歌集『ヘクタール』 2022年 文藝春秋
内と外が反転するような感覚が魅力の歌です。生きることの嬉しさと辛さを同時に感じます。
/この歌を推薦した人 千代田 環
https://twitter.com/chiyodatamaki
#4
われらみな叫びたき者 彼岸花の朱色の畦に顔上げて立つ
/ 太田宣子 2021年9月16日 うたの日 題「朱色」
http://utanohi.everyday.jp/open.php?no=2726g#g20210916025
昨年も迷った歌ですが、1年以上経っても忘れられなかったので推薦します。とにかく初句二句が強すぎる。声なき咆哮、鮮やかな色彩(歌で描かれていないはずの青空と朱色のコントラスト)、彼岸/死のイメージが心の中でより鮮烈になっていくようです。
/この歌を推薦した人 野川
https://twitter.com/nogawatomoki
#5
平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ
/ 岡本真帆 歌集『水上バス浅草行き』2022年 ナナロク社
とにかく共感度がやばい。みんなが働いてる時間にビールを飲む背徳感と優越感。直接言及されてないのに、カッと突き刺さってくるような真夏の日差しと青い空、汗をかいたジョッキを透かしてきらめく黄金の光が目に浮かぶ。夏の象徴とも言えるビールに「これが夏だよ」と教えるところも、この上ないビール日和の空気感が伝わってきて良い。
/この歌を推薦した人 T・G・ヤンデルセン
https://twitter.com/TGyandersen
これは昨年Twitterで発表された歌なのですが、今年に入ってから知ったので。名コピーとか名歌の特徴のひとつに「みんなが言葉にしないけど、みんな思ってることを言葉にする」ことが挙げられると思います。「あれ?この言葉私が考えたのでは?」そう思わせる言葉はズルいほど響くし、何度でも読みたくなりますね。ごらんよビールこれが夏だよ。
/この歌を推薦した人 新妻ネトラ
#6
パスワードの中に犬の名住まわせて打ち込むたびに君に会いたい
/ 岡本真帆 歌集『水上バス浅草行き』2022年 ナナロク社
まさに、うちの犬も毎日パスワードの中で吠えています。パスワードに住んでいる犬は意外と多いのかもしれないと思って、あたたかい気持ちになった歌です。みんな元気にしてるといいな。
/この歌を推薦した人 あおたな
#7
南極に宇宙に渋谷駅前にわたしはきみをひとりにしない
/ 岡本真帆 歌集『水上バス浅草行き』2022年 ナナロク社
子供の頃に、なんであんなことがと(映画がヒットしたことも含めて)怒りと悲しみに震えたことを思い出しました。
/この歌を推薦した人 ねねこむ
https://twitter.com/nenecom_comcom
#8
晴れの日は風と暮らして雨の日は涼しいなって気持ちと暮らす
/ 岡本真帆 短歌ムック「ねむらない樹 vol.9」 リレー共作「はじまりの合図」
自然体の歌で、なかなかこう詠むのは難しいとおもいます。それは無理して明るくしないけど落ち込みすぎずに日々暮らすのと同じくらい難しいことのように感じます。
晴れの日も雨の日も受け入れて自然体で過ごしてゆく。じんわり心に残るお歌でした。好きです。
/この歌を推薦した人 小泉キオ
https://twitter.com/kiokoizumitanka
#9
騎手の落ちた馬はうつすら透きとほり勝ち負けのない世界を走る
/ 小金森まき 2022年11月13日 うたの日 題「勝」
https://twitter.com/koganemorimaki
私が詠みたい、理想の歌だと思いました。この自然さと寂しさと空しさがとても好きです。一生忘れられない歌だと思います。
/この歌を推薦した人 ナカムラロボ
https://twitter.com/nakamurarobot
背負わされていたものが不意に消え、手にした自由。それが永遠ではないことを馬が理解しているかどうかは分かりません。ですが、背負わせている側の私達にもその一瞬をまるで永遠のように感じさせてくれる、ため息が出る程美しい一首だと思います。大好きです。
/この歌を推薦した人 マーチ
https://twitter.com/mar3TD3ch3
#10
口々に「これは大きい」「大きい」と助産師たちは春に言祝ぐ
/ 小金森まき 短歌総合誌「短歌研究12月号」短歌研究年鑑2022より(第65回短歌研究新人賞佳作)
https://twitter.com/koganemorimaki
出産に関する連作の一首です。リフレインによる臨場感溢れる上の句、温かく詩情豊かな下の句に引き込まれました。
まさに今産まれる(た)子を春として読むと、子の成長とともにますます膨らんでゆく春のイメージが付され、その明るさに、同じ母としてどこか救われた心地がしました。また結句まで読んでから再びこの歌を読み直したとき、助産師にボッティチェリの春(プリマベーラ)の三美神が重なって見えました。子をメインに詠んでいる歌ではありますが、その根源には助産師への深い敬意があるように思います。
子育てに関する短歌を多く詠む作者の、特に光溢れる生命の歌としてこの歌を推薦しました。
/この歌を推薦した人 塩本抄
https://twitter.com/tankanosio
#11
けふ君と交はしたほんのいつときを挿し絵のやうに見返してゐる
/ 小金森まき 2022年07月08日 うたの日 題「絵」
https://twitter.com/koganemorimaki
人と関わることは傷を負うこと。そのぶん、とても愛おしいこと。小金森まきはいつだって、私がひとりでは見つけられない光を惜しみなく見せてくれる。
/この歌を推薦した人 小藤舟
https://twitter.com/kofujishu_tanka
#12
「ママいってくるね」とふかく抱きしめてわたしの方が泣きそうだった
/ 小金森まき 短歌研究12月号「短歌研究年鑑2022」第65回短歌研究新人賞佳作
https://twitter.com/koganemorimaki
とにかく一首全体から優しさがあふれていて、一読して涙が出てきてしまった短歌です。子供を保育園か幼稚園に預けて仕事へ向かう母親の景だと思いますが、そこに「わたしの方が泣きそうだった」という下の句が来ることで主体の母性と一人の人間としての切実な感情が描かれていると感じます。置いていかれる立場である子供を泣かせないよう笑顔で「いってくるね」と声をかけながらも、無垢な笑顔を見てしまえば離れがたいと感じるのでしょう。おそらく、一緒にいないそのわずかな時間にも成長してしまうであろう我が子への愛情が「ふかく抱きしめて」とひらがなで開かれた言葉から伝わってきます。リアルな情景とやわらかい言葉選びから親から子への深い愛を感じる、とても好きな一首です。
/この歌を推薦した人 睦月 雪花
https://twitter.com/mu_tsu_ki_s
#14
方角に中心はなくおのおのの東日本へ瞳を閉じる
/ 小金森まき うたの日2022年03月11日『東日本』
https://twitter.com/koganemorimaki
何処かを起点とした東西を言うのではなく、あなた自身の中に「東日本」があるのだという訴えに深い感銘を受けました。
/この歌を推薦した人 六厩めれう
https://twitter.com/mereumumai
#15
気遣ひを覚え始めたをさなごのひとり起き出す栗鼠の足音
/ 小金森まき 短歌総合誌 角川「短歌」11月号
https://twitter.com/koganemorimaki
お子さんに気遣いが芽生えたことを慈しむ可愛らしいお歌だと感じました。お子さんが忍び足で寝室を出て行く景が思い浮かびました。「栗鼠の足音」の比喩が可愛らしさや静けさの中から感じる物音をうまく表現していると感じました。
/この歌を推薦した人 初夏みどり
https://twitter.com/___shoka____
#16
踏み込めば静けさばかりかへりきてここがあなたの境内なのか
/ 小金森まき 短歌総合誌 角川「短歌」2022年12月号
https://twitter.com/koganemorimaki
心のなかのひときわ冷たく張りつめた場所を「境内」とした時に、意を決して踏み込んだけれど引き返さざるを得ないような断絶を感じました。淋しいけれど、淋しさだけではないと感じるのは、ただ静かにその痛みを見つめようとする主体の誠実さが滲むからかもしれません。
/この歌を推薦した人 鳥原さみ
#17
失恋の・体験が・失恋の・体験が・いちねん・おきに・ダ・カーポ・ダ・カーポ
/ 芒川良 ネットプリント「OVER」
https://twitter.com/susukikawa
/この歌を推薦した人 尾崎飛鳥
#18
書くことで死なずに済んだ詩じゃないと生きるあなたの役に立たない
/ 枡野浩一 https://twitter.com/toiimasunomo/status/1592406995361226752
https://twitter.com/toiimasunomo
『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』発売後の枡野さんの新しい代表作だと思いました。新短歌集なのか第一歌集か分かりませんが新刊が出ると思いました。
/この歌を推薦した人 真野陽太朗
https://twitter.com/kuroinogaboku
#19
努力とは希望を持っている人にだけゆるされたまぶしい助走
/ 枡野浩一 歌集『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』
https://twitter.com/toiimasunomo
一読して本当にその通りだと腑に落ちました。今、努力している人の背中を押してくれるような、それこそまぶしい短歌だと思いました。同時に、自分は今までそういう努力をできていたいただろうかと考えさせられます。
/この歌を推薦した人 茅野
https://twitter.com/white22autumn
#20
私よりきらきらさせる人がいる 私がやっと拾った石を
/ 枡野浩一 歌集『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(左右社,2022年)
https://twitter.com/toiimasunomo
若い時の切なさ大爆発の短歌も好きだけれど、この作品は静謐さが加わり、より沁みてきます。
/この歌を推薦した人 ねねこむ
https://twitter.com/nenecom_comcom
#21
少女らにウケるバンドのライブでは男子トイレがすいていて楽
/ 枡野浩一 歌集『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』2022年 左右社
https://twitter.com/toiimasunomo
昔、「音はかっこいいのに客が女ばっかで残念」と思ったことがあった。自分も『少女ら』のひとりだったというのに。それから大分経って、昨日行ったライブではこの歌と真逆で女子トイレがすいていて楽だった。それはただの事実なんだけど、昔の自分の謎のジャッジを思い出して恥ずかしくなったのです。
/この歌を推薦した人 マーチ
https://twitter.com/mar3TD3ch3
#22
まんなかは案外しずか 他人ほど派手に泣き出す斎場に雨
/ 桐島あお http://utanohi.everyday.jp/open.php?no=3082i
https://twitter.com/natsunoyuugata
台風から斎場への発想の飛躍が素晴らしく、今年一番印象に残った短歌。
/この歌を推薦した人 ふじのん
#23
すいまっせーん!もうしません!とは言えまっせーん!みたいな顔で腹を出す犬
/ 桐島あお うたの日 題『 「せん」を三回詠み込んで 』
https://twitter.com/natsunoyuugata
うたの日の3000回記念の日の歌。作者の普段の短歌とは全然違うイメージの歌ですが、他の素敵な歌は他の人が推してくれると信じてこちらを。題の詠み込みの面白さと歌全体の弾けたイメージが結句に穏やかに収束されていって、楽しさだけではなくほのぼのした感じやお茶目さがあってとても心を掴まれた一首です。
/この歌を推薦した人 奈瑠太
#24
湿らせる前に済んだね好きじゃないひとがきちんと下手でうれしい
/ 桐島あお うたの日(テーマ「前」)
https://twitter.com/natsunoyuugata
あおさんの名歌は数多くあれど、こんな明るい落胆の歌は滅多にないと思い選びました。こちらの歌の入った連作もものすごく好きで、通して読むとまた味わいが違うなぁと思います。上手だったらなんとなく惜しい気持ちが出てしまうかもしれない。好きになることはないという気持ちの心地よさ。あおさんは明け透けな表現なんてけしてしないのに、どうしてこうもセンシティブなのでしょう。好きです。
/この歌を推薦した人 新妻ネトラ
#25
あの鬼を殺せと笑う主人から桃のにおいは消えてしまった
/ 桐島あお 2022年11月11日うたの日 題「犬」
https://twitter.com/natsunoyuugata
鬼、主人、桃のにおい、などの言葉であの有名な桃太郎をモチーフとした歌だと読者に明示しながら、別の世界線ではこんな話があったのかもしれないと感じさせる切なく衝撃的な一首です。かつては桃のように甘く優しいにおいがする主人であったにも関わらず、長く続く鬼退治を経て「鬼を殺せ」と笑いながら命じるようにまでなってしまった。結句に「消えてしまった」とあることから、この変化は一番最初からのお供であった犬にとってつらいことだったのではないかと推察できます。そしてきっと、この消えてしまった桃のにおいも嗅覚の優れている犬だからこそ気付けたのではないかと思います。美しさと切なさのバランスが素晴らしく、題の消化の仕方や切り口も見事な一首だと感じます。度々思い出す大好きな短歌です。
/この歌を推薦した人 睦月 雪花
https://twitter.com/mu_tsu_ki_s
桃太郎エピソードであることを決定付けるには非常に言葉のコストパフォーマンスが良い〈桃のにおい〉が、それに止まらす、青春や聖人の象徴として一種示唆的に鋭く機能している。それでいて非常に詩的。
/この歌を推薦した人 西鎮
https://twitter.com/xi_zhen_ivUT
#26
それからはすべてが蛇足となりいつまでも正確に伝わることはない感情の名前
/ 野村日魚子 歌集『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』 2022年 ナナロク社
この感情のことをこれほど納得のいく言葉にされたのは初めて見ました。
/この歌を推薦した人 さとや
https://twitter.com/capucapusatoya
#27
百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た
/ 野村日魚子 歌集『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』 2022年 ナナロク社
「百年」「嵐」「恋」「すべて」と、派手に、スケールが大きかったり抽象的だったりするワードで彩られたこの歌の、その中で一番【すごい】のは「実際」だと思う。この2文字によって急速に進められた【事態】のことを、僕はこの歌(あるいは商品名)を目にするたびに、思い出すたびに、考える。百年、本当に経ったのかはわからない。そこに「実際」はかかっていないように読める。でもそのうえで、そのくらいのスケールでの【経過】を感じることができる。「恋」もわからない。これは意図的に【事態】の先で隠されたものになっているようだ。
【事態】……どういった、かはほんとうにわからない。全部例え話に過ぎないのかもしれない。ただ、「実際」、すべてがこわれて、わたしたちはそれを見ている。……見えもしない光景に、うっとりしてしまう。
/この歌を推薦した人 おだやかな視点
https://twitter.com/Hiraide_Hon
#28
母といふ塔の崩るるこゑのして背なに触(ふ)るれば骨の浮きをり
/ 朧 2021年09月05日 うたの日 題「泣」
母親が泣き崩れる様子をこんなに端的にそして詩的に表現できるのかと驚かされました。「母といふ塔」と表現しているように、主体にとって、母は塔のように力強く大きなものだったのだと想像します。その母が音を(泣き声を)立てて崩れ落ち、その背中は骨が分かるほどに痩せて頼りなくなっている....。「崩るるこゑ」がする以前の母子の関係や、思わず手を伸ばさずにはいられなかった主体、そして触れたことで気がついた母の変化と時間の経過。たった31文字なのにすごい情報量です。それでいて詰め込みすぎた感は全く無くて淡々と読んでいる。こんな歌をいつか詠みたい、と思わされた1首です。
/この歌を推薦した人 たちばな
https://twitter.com/autumn_o_tcbn
#29
母の手が父の写真に触れてゐてそれはすつかりロマンスだつた
/ 朧 うたの日「すっかり」
「すつかりロマンス」という何気ない、それでいて印象的な言葉選びが最高です。そして、言葉としては一時代前のものかもしれない「ロマンス」が、浮くこともなくスッと収まる、旧仮名との相性の良さ。主体の目を借りてクラシック映画を観ているような気持ちになれる、下半期で最もときめいた歌でした。
/この歌を推薦した人 北谷雪
https://twitter.com/kitaya_misomiso
#30
白鳥はゆるくほどけてねむるから音符の散らばるようなこの岸
/ toron* 2022年10月1日うたの日題「緩」
白鳥の柔らかさは想像つきますが、ゆるく解けたという表現は思いつかないです...
さらに、その解けた様が音符に似ているという二重の比喩もあり、大好きな歌です。
/この歌を推薦した人 はつきむ
https://twitter.com/hassaku1996
#31
待つ人がひとりであってもバスの来る町の公転軌道が好きだ
/ toron* 個人誌『メテオール 01』
/この歌を推薦した人 涸れ井戸
https://twitter.com/kareido1111
#32
もうなにも吐瀉するものがなくなったバンドのように終わる思春期
/ toron* 2022年05月24日 うたの日題「しゃす」
大好きなtoron*さんの歌です。この時期短歌から離れていてあとから知りましたがすべてが最高です。もうなにも吐瀉するものがなくなったバンド、だけでも胸を打つ喪失感のようなものがあるのに、それは思春期に準えた前座だったとは……青春の激情の終わりを詠んだ傑作だと思います。題の「しゃす」から「吐瀉する」に持っていくのもすごい。
/この歌を推薦した人 月下さい
https://twitter.com/tsukishitasai
#33
蓋をしたままのカメラできみに似た
やさしい闇をときおり覗く
/ 木下龍也 2022.10.2放送「情熱大陸」
弟様が自死、お母様が病死された方の、「弟の好きだったカメラをいれて、家族にわたしは元気でやっていると伝えられる歌を」という依頼に応えてつくられた歌です。
本来外の景色を見るものであるカメラに蓋をすることで、カメラの中自体を見ようとする主体の姿が浮かび、また、もう外を写すことのないカメラは持ち主の不在を感じさせます。「やさしい闇」は、カメラの持ち主の抱えていた闇、彼を失った主体の心に空いた穴を想起させますが、頭に「やさしい」とつくことで、主体は今おだやかに生きているのだろうという救いを感じます。
短歌を読んで涙が出てきたのはこの歌が初めてでした。
/この歌を推薦した人 川下知世
#34
かなしみは洗練されてゆくだろう胸にしまえる鈴のサイズに
/ 木下龍也 歌集『オールアラウンドユー』2022年 ナナロク社
誰にでもかなしいことはあって、でもどんなにかなしくても時間が経つとある程度は和らいでしまいます。それは人の心の防衛反応みたいなもので正しいことなのだけれど、かなしみが和らいだことに罪悪感や辛さを覚えることもあるとおもいます。誰かを亡くしたり、別れたりと相手がいるときは特にそうかもしれません。
この歌はそんなかなしみが和らぐことを洗練と言い、和らいだかなしみを鈴と、しかも胸にしまえる鈴と詠んでいます。
あぁそうか洗練されたのか、しかも胸にしまっておけるのか、とすとんと救われたような気持ちになる人は多いはず。
やさしい、お守りにしたいような歌だと思います。
/この歌を推薦した人 小泉キオ
https://twitter.com/kiokoizumitanka
#35
詩はすべて「さみしい」という4文字のバリエーションに過ぎない、けれど
/ 木下龍也 歌集『オールアラウンドユー』2022年 ナナロク社
「けれど」の先に、続けたくなる言葉が毎日違います。けれど、詩を読むと生きる勇気が湧く理由がわかったような気がしました。
/この歌を推薦した人 あおたな
#36
生きてみることが答えになるような問いを抱えて生きていこうね
/ 木下龍也 歌集『オールアラウンドユー』 2022年 ナナロク社
木下龍也さんの第三歌集からの一首です。生きることが辛くなるとき、諦めてしまいたくなるときにお守りとしてしのばせて置きたい歌です。この歌に出会えたことが一生の宝物になりました。
/この歌を推薦した人 つきひざ
https://twitter.com/northmount836
#37
雪折れの果樹にあわせて指をまげ、真摯な読解を試みる
/ 帷子つらね「雪 -暴力にまつわる習作Ⅰ」 同人誌『越冬隊 vol.5』
「雪折れの果樹」との距離感を考えて保っていると感じ、その冷静さをありがたく思った。
「指をまげ」は果樹に触れるのでなく、視界の中の果樹に重ねるように、ととった。自分の身体を使って、相手の身体をこれ以上傷つけないように(それでも、視線でなぞられるだけでも傷ついてはしまうわけだけど)扱っている。
「読解を試みる」そうだと思う。例えば共感では決してない。できることは読解「を試みる」ことで、読解「する」ことではない。そして「真摯」でなければならない。
「真摯な読解を試みる」という下の句は言い聞かせているように聞こえる。間違えないように。忘れないようにしなければならない。
/この歌を推薦した人 小山鶴
https://twitter.com/me_shio_omizu
#38
リア充が手に持っているジェラートに光が射して溶けますように
/ 鈴木ベルキ 2022年10月21日 うたの日 題 『 リア充 』
https://twitter.com/pandakirinkaba
キニー・コーヴェルさんがスペースで紹介されていて知った短歌です。普段のように目でじっくり読むのではなく耳で一度聞いただけにも関わらず、あまりにも衝撃的ですぐ元ツイートを探しに行きました。「光が射して」で一見幸せをアシストしているように感じるのに「溶けますように」で叩き落とされる下の句の呪いがたまりません…。
/この歌を推薦した人 好乃智紀
https://twitter.com/yoshino_tomoki
#39
雪を待つ手のひらが好き ひろゆきの中では荻原裕幸が好き
/ 林あかり 2022年10月11日うたの日題『手
https://twitter.com/negototoshi
いつも幻想的でファンタジックな作風が多い林あかりさんですが、この歌は珍しく社会詠の側面(詠まれたときはちょうどひろゆき氏が沖縄の座り込みを揶揄していて炎上していた頃でした)を持っていてなおかつ美しい作風も両立しているのが素晴らしいと思いました。
/この歌を推薦した人 つきひざ
https://twitter.com/northmount836
#40
カーテンの隙間から差す秋の陽が猫をひかりの箸置きにする
/ 林あかり 2021年09月25日 うたの日 題「箸」
https://twitter.com/negototoshi
読んで一瞬で情景を想像できました。箸も食卓も出てこないのに、歌われている情景はまさしく箸が置かれた箸置きだと分かるすごさ。また、その柔らかな情景と、「ひかりの箸置き」となっている猫を見つめる視点の穏やかさとが、本当に素敵で好きな歌です。
/この歌を推薦した人 たちばな
https://twitter.com/autumn_o_tcbn
#41
快速が一番線通過します線路の中でお待ちください
/ 夜月雨 2022/11/27 Twitter 連作『無駄生』
なんとも皮肉っぽく、けれどもあるいは生きづらい人への優しさとも思えて、すごく刺さりました。
/この歌を推薦した人 藤野ゆくえ
#42
青年の手と少年のうなじ持つ14の子はキマイラの蝶
/ 毛糸 2022年11月29日 うたの日 題「うなじ」
https://twitter.com/ellaella_okka
自分にとって大切なもの、愛おしいものをクールに読める歌は名歌だと思う。
この歌は描写のみで、主体(おそらくお母さんであろう)の感情は描かれない。しかしその余白によって愛情の細やかな色が見えてくる。
「キマイラの蝶」に射抜かれた。
まず蝶、というデリケートな存在が、14歳という揺れ動く存在に合っている。蝶は蝶でいる期間が短く、環境の変化に敏感で、美しい羽は欠けやすい。
女の子ではなく男の子に蝶を取り合わせているのも、甘すぎることなく危うさを保っていて美しい。うなじと手、というモチーフもまさに蝶々。
また、蝶をはじめ昆虫には「雌雄モザイク」という両性の特徴をもつ個体がいることも連想できる。中性的な間を揺れ動く成長期の男の子を表すのに、蝶はこんなにしっくりくるのだという発見があった。不安定なうえで完成している美しい生き物。
そしてそれら全てのアンバランスさ、デリケートさを「キマイラの」と言い切るのがとても効いている。
キメラは異質さの同居した空想動物。蝶、だけでは素直に綺麗すぎるかもしれないところに付け足されることで、親としての愛とともに、命や成長するものへの感動、わずかな戸惑い、敬虔さを持つ眼差しさが込められているように感じる。
抑えられたトーンの中に、大きな愛と尊重、複雑さのある、当事者だけに止まらない美しいお歌。大好きです。
/この歌を推薦した人 鳥さんの瞼
https://twitter.com/withoutSSRI
#43
秋晴れに谷川史子の線で描く風の吹きたり、恋がふくらむ
/ 茂巳あち 2022年10月04日 うたの日 題「史」
https://twitter.com/achishigemi
谷川史子の線!にうれしくなった歌です。
結句の「恋がふくらむ」が「谷川史子」にぴったりでとっても好きな歌です。谷川史子さんって、私は小学生のときにりぼんで読んでいて、ほんとに「恋がふくらむ」ような少女漫画でした。
最近は女性漫画を描かれていると思うんですが、この歌の「谷川史子の線」は少女漫画の頃の線なのだろうなと思いました。で、谷川史子さんって、春も似合うと思うんですけど、この歌は秋なんですよね。だからなのか、この「恋がふくらむ」の恋は、初恋とかではなくて、30代くらいの女のひとが久しぶりに恋するかんじがしました。
あと茂巳あちさんのミナペルホネンの歌、「蝶舞わぬ空を選んでまっすぐに息止めて裁つミナペルホネン」この歌も大好きなので一緒に並べて読みたくなりました。
/この歌を推薦した人 林あかり
https://twitter.com/negototoshi
#44
星空の万引き常習犯として指名手配をされる東京
/ 北町南風 2022/10/21 うたの日 題「万」
https://twitter.com/THE_NORTHSOUTH
星空を万引きする、という表現がとても好きです。東京ではぜんぜん夜空の星が見えないよ、ということをこんなに美しく表現できるなんて……、と、とても胸を打たれました。
/この歌を推薦した人 藤野ゆくえ
#45
恋は煙 いつか磯丸水産であなたを少し好きだった頃
/ 北原有 2022年2月6日 / 第48回恋愛短歌同好会ベストアクトより
https://twitter.com/yagennankotsu06
「恋」「煙」「磯丸水産」…などなど、それぞれの言葉が無駄なく噛み合っており、深い奥行きとともに情景が心にすっと沁みていった一首でした。
これは余談ですが、映画『ちょっと思い出しただけ』を思い出しました。はじめに結末をほぼ提示し、過去のある恋愛を最初から想起していく映画です。
主体は客として磯丸水産にいて、過去の恋慕を思い出している景だと捉えました。磯丸水産という居酒屋では各テーブルにコンロがあり、新鮮な海産物をその場で焼くことができます。魚や貝を焼いて出た煙はもくもくと立ちのぼり、やがて見えなくなります。そんなに強くはないけれど、魚が焼けるほどの火力で、淡い恋をしていた。そんな景が浮かびました。
今見えている煙、立ちのぼって見えなくなる煙、目の前の出来事、想起している過去の出来事。同時に発生する複数の時節を「煙」によって成立させていて、見事な構成です。
/この歌を推薦した人 音忘信
#46
猫に近づく人の遅さと逃げていく猫の速さは地球っぽいな
/ 豊冨瑞歩 結社誌「塔」2022年11月号
「地球っぽいな」がすごくいい。野良猫に逃げられないようにゆっくり近づく人間と危険を察知してものすごい速さで逃げていく猫。人間はもちろん猫を傷つけたりしないのだが、その意図に猫に伝わらず、逃げられる。生き物同士がわかりあえなさを抱えながら、それでも関わろうとする光景は、いかにも地球っぽい。
/この歌を推薦した人 中型犬
#47
四人組って崩れがちじゃないですか?って聞いたらそうでもなくない?のギャル
/ 豊冨瑞歩 歌集『展開』2022年
/この歌を推薦した人 尾崎飛鳥
#48
Follow meだけが通じてそこからは二人で原爆ドームを目指す
/ 峯ひろき うたの日2022年8月6日題詠『原爆ドーム』
https://twitter.com/mine_tanka
初句の入りの綺麗さから心を捕らえられました。かつての敵国同士のコミュニケーションと未来への前向きさ、ストーリーが練られていて心に残りました。
/この歌を推薦した人 寿司村マイク
https://twitter.com/xHksbNR4wv1wj8M
#49
どちらからでもざわめく言葉は手に入る美しい道そうでない道
/ 片岡聡一 歌集『海外暗号化』2012年 青磁社
ふとした時に頭をよぎるお歌です。なんというか、心が軽くなる。どんな風にこの生を歩いたって、言葉はまるで葉っぱのように落ちているから、焦らずに色んな方法を試してみてもいいんじゃない?と、気軽にぽんと肩を叩いてくれるように感じて、とてもほっとします。きらめくやかがやくなどの煌びやかな単語ではなくて、ざわめくというのがまた、綺麗事では終われないこの世の真理をついているなぁと、読むたび思います。
/この歌を推薦した人 巣守たまご
https://twitter.com/sugomorigogogo
#50
それでいい。嘘には良いのもあるんだし、遠かったでしょう、ここまで
/ 平出奔 歌集『了解』2022年 短歌研究社
https://twitter.com/Hiraide_Hon
主体の語りかけがどこまでもやさしい。おそらく主体の向こうに嘘をついた誰かがいるのだと思いますが、嘘をついたという事実の是非をこえて、一首にあたたかないたわりが存在しています。傷ついたことのある人はひとに優しくなれる、と言いますがこの歌に感じるのは、そういった性質の優しさ。もしかすると結句だけが他者への呼びかけで、それ以前は主体が自らに言い聞かせているようにも読めます。いずれにしても、人間の弱さを肯定する許しの歌だと思います。
/この歌を推薦した人 スズキセイラ
#51
血が出たらなんか笑ってしまうこと 普通でいいな本気で生きるのは
/ 平出奔 同人誌『のど笛2』
https://twitter.com/Hiraide_Hon
「普通でいいな本気で生きるのは」という下の句に痺れました。本気で生きるのは普通のことである、普通のこととして本気で生きる、とわたしはとったのですが、それは常に意識されるわけではないけれど「本当」のことであるように思います。わたしたちはいつだって普通に生きることに本気で、血が出たらなんか(あー生きてるなーって)笑ってしまう、そのことになんだか感動してしまいました。
/この歌を推薦した人 初谷むい
#52
平凡なレフトフライな暮らしさえ浜風にのる日もなくはない
/ 平安まだら 東京歌壇(2022.9.18)
https://twitter.com/ooogomadara
平凡な私のような人間でもいつかは……、そう思わせてくれる素敵な歌でした。
/この歌を推薦した人 CHONO
#53
こめかみの側を誰かの指が過ぎエレベーターの<12>を射抜く
/ 平安まだら 2022年11月28日 毎日歌壇 加藤治郎 選
https://twitter.com/ooogomadara
歌を読みながらスローモーションでその景が思い浮かびました。俳句が一瞬を切り取るものなら短歌は動きを切り取るものなのかもしれないと新たな発見を感じるお歌でした。
エレベーターのボタンではなく私の心が射抜かれました。
/この歌を推薦した人 初夏みどり
https://twitter.com/___shoka____
#54
一九四九年夏世界の黄昏れに一ぴきの白い山羊が揺れている
/ 浜田到 歌集『架橋』 1969年 白玉書房
浜田到は1918年生まれ。開業医をするかたわら短歌を詠むが生前に出版された歌集はなく、49歳で亡くなった後に遺構がまとめられたこの歌集『架橋』のみ。この歌集に収録されたこの短歌に出てくる「一九四九年夏」に何があったかと歴史を紐解くと、「ソ連初の核実験」とある。果たしてこの事象を指していたのか、それとももっと抽象的なことを指していたのか、わからない。が、「黄昏れ」のなか世界の動揺を一身に背負うように「揺れている」「白い山羊」のイメージはとても鮮烈で、とても不穏だ。
/この歌を推薦した人 虫追篤
https://twitter.com/musouatsushi
#55
せめてものドレス、ローラアシュレイのエプロンで煮る豚バラ大根
/ 美好ゆか 2022年02月06日うたの日 題「ドレス」
生活感と、せめてものドレスという表現に一目惚れしました。お姫様のようなドレスばかり連想していたなかで、日常のなかでまとうローラアシュレイの(!)エプロンと豚バラ大根の落差がたまりません。豚バラ大根が食べたくなりました。
/この歌を推薦した人 月下さい
https://twitter.com/tsukishitasai
#56
赤茶けた更地の隅の受箱へ「郵便です」と秋風を差す
/ 尾内甲太郎 中日新聞 2021年10月10日中日歌壇
/この歌を推薦した人 五感
#57
グラタンは一夜を冷えて壊れたりかたちのなかのもの壊れたり
/ 内山晶太「秋と夜」 「秋と夜」同人誌『外出 八号』
一晩放置した食べ物は悪くなり食べられない、けれども外見は食べられる状態だった頃と変わらない、ということは確かに不思議なことで、それをこのように描写されることで、自分の内側が壊れていくような感覚が得られたことは、より不思議なことだった。
かたちのなかのもの。チーズの膜をやぶってもそれはまだ見えてこない。
/この歌を推薦した人 小山鶴
https://twitter.com/me_shio_omizu
#58
もしわたしが生まれなくてもきみが生まれたときうれしいってきっと思えたよ
/ 藤宮若菜 歌集『春だったわたしたちへ』2022年 私家版
/この歌を推薦した人 _
#59
どんな場所で死んでもきみへ還りたい 朝日にひかる爪をみていた
/ 藤宮若菜 『春だったわたしたちへ』(私家版 2022)
死を前提とした生活の中でなんとなく爪をみると、朝日に照らされている。ふと、どんな場所死んでもあの人に「還」りたいという気持が降ってくる。生と死の日常性、そこから続く「還」という飛躍、すべてに惹かれました。
/この歌を推薦した人 日菜子
https://twitter.com/hinakonomono
#60
きみをすきだから生きるよ ・・・ ちゃんと生きたら頭を撫でて
/ 藤宮若菜 2022年8月23日Twitter発表連作「てのひら」(同年9月1日note記事に掲載有) 第1.5歌集『春だったわたしたちへ』連作「てのひら」
たったひとりの「彼女」に向けて作られたという私家版歌集の一首です。
どうしても死を見つめてしまう主体が、彼女からずっと生きていくよう告げられ、なんとか生きていく、生きている姿を書き写した歌集でした。どの歌からも胸を掴まれるほどの切なさが迸っていましたが、主体の祈りと願い、なにより決意が最も強くやさしく響いてくる歌を推薦しました。
ちゃんと生きる。誰にも本当にはわからないであろうその決意の、なんと尊いことでしょう。それができたら(逡巡の上で最後に選んだ)優しく褒めてもらいたいという素朴で切なる願いに胸を打たれました。主体を生かしている彼女ごと、大好きな一首です。届いて欲しい歌です。
/この歌を推薦した人 塩本抄
https://twitter.com/tankanosio
#61
異性って言葉は恋愛対象を指してるんだな レシートいいです
/ 藤井 2022年09月20日 うたの日 題 「恋」
多くの方が選を送った歌ですが、同じ読みをした方はふたりといないのでは…。
何しろこの歌は、簡潔でありながら何も説明していない。結句の「レシートいいです」のきっぱりとした物言いもまた、他者の介入を求めない主体の悟り(諦め)のようで、上の句に通じるものがある。
とにかく、どこまでも読み手に媚びないこの主体に強烈に惹かれてしまう。どうにかあなたを理解したいと思う。
主体は「恋愛が介在しない異性」あるいは「同性を恋愛対象とすること」を信じてきたのだと思う。その価値観を誰かに否定されたとき、主体の気持ちはどこへ向かうのだろう。少なくとも外には向かわない。
自分の気持ちは自分が一番わかっているから、レシート、いいです。
/この歌を推薦した人 北谷雪
https://twitter.com/kitaya_misomiso
#62
太陽とあなたは名乗らずにぼくの天動説は赦されていた
/ 藤井 うたの日2022年10月24日 題「説」
/この歌を推薦した人 吉田岬
#63
不意にペトリコール満ちて思い出の雨にひらかれてゆく水中花
/ 藤井 ネットプリント『Recall』(2022年7月15日)
一瞥、付き過ぎな印象の言葉たちの斡旋に、月並と断じて見過ごしてしまいそうになる。しかしてよく見るとそれらは巧みな縁語の連綿であり、読む者のこころを自然と慰めてやまない。すべてが水の縁語であり、花の縁語であり、つまり思い出の縁語と言えよう。しばらくはペトリコールのトップノートが芬々としていようが、またまさに「不意に」気付かされるラストノートの花の香り。一二句の不束な調べが腰の句で締まり、また四句で散発していく韻律の手際は、縁語に継ぐ縁語で沈み過ぎた歌の印象を、たしかに華やかにしているはずだ。
/この歌を推薦した人 月岡烏情
#64
爛々と君は立ってよ戦場へ歩くアトムの群れがあっても
/ 湯島はじめ ネットプリント「ヤー・チャイカ」2022年夏号
https://twitter.com/hajime_yu11
戦場へ向かうアトムの群れ。SF的なディストピアのようだけど、その場所に「君」が立つなら、現実と地続きの近未来なのだと思う。テレビのなかのアトムは、空を自由に飛びまわり、強くてかっこいい、無垢な子供たちの憧れ。
戦場に向かうことを知ってか知らずか(いや、知らないはずはないだろ)、大人になった「君」はいつまでも「あっアトム!」と爛々と立ち上がって手を振る。
そんな馬鹿な。でも「君」にとっての世界はそうであってほしい。主体の愛は深くて、そして愚かだ。
/この歌を推薦した人 北谷雪
https://twitter.com/kitaya_misomiso
#65
見せられた日焼けの線に立ち止まる ここまでは夏、ここからは君
/ 杜崎ひらく Twitter 2022年6月20日
https://twitter.com/kousei_tsurun
くっきりと日焼けした君の体(腕でしょうか)を見せられて目線を止めると同時に、心も持っていかれる一瞬を切り取っています。一読して景が鮮やかに浮かぶ素敵なお歌ですし、よく見ると「見せられた」「立ち止まる」といった言葉のひとつひとつが選び抜かれていることが伝わってきます。
夏と君、本来並列するには次元の違うふたつを日焼け跡を介して比喩でつなぎつつ、心情を表していて技巧としても素晴らしいと気づきました。とても好きな歌です。
/この歌を推薦した人 小泉キオ
https://twitter.com/kiokoizumitanka
#65
見せられた日焼けの線に立ち止まる ここまでは夏、ここからは君
/ 杜崎ひらく 恋愛短歌同好会7月のベストアクト首席歌
https://twitter.com/kousei_tsurun
不意に君が見せた日焼けの跡に思わず立ち止まってしまう主体が初々しくてめちゃくちゃ好きな歌です。「夏」の対比としての「君」がとにかく秀逸で、未知の領域に息を飲みながら踏み込めずいる主体が想像できます。それに対して、無防備に日焼け跡を見せる君はきっと主体のことを恋愛対象として意識していないんだろうなと感じました。今年読んだ歌の中でダントツ一番に好きな歌です。
/この歌を推薦した人 哲々
#66
皮膚呼吸 すこしふくらむ夏がありヘルベチカヘルベチカと歌える夏だ
/ 田中大貴 LINEblog歌会Tanka Place Mo お題『 皮 』
https://twitter.com/tanka_daiki
作者が主催している歌会に出詠された短歌です。ファンタスティックな歌を詠まれる作者の味が存分に詰まった一首として心を掴まれました。ヘルべチカは汎用性の高いフォントの名でスマートさ、お洒落さと音の小気味良さが何とも味わい一首です。
/この歌を推薦した人 奈瑠太
#67
半夏生 左腕に陽が差したとき傷の部分がいちばん白い
/ 田村穂隆 歌集『湖とファルセット』 2022年 現代短歌社
白く浮き出るような傷として、火傷や手術の痕を想像しました。傷は痛みの記憶であって、主体にとって心情的にもどうしても消せないものなのかもしれません。それでも、主体が傷を静かに眼差せるような状態で陽が差す場所に居ることに、少しだけ救いもあるような気がします。一首の中に気づきと詩情が詰まっていて、とても好きな歌です。
/この歌を推薦した人 早月くら
https://twitter.com/k_hayatsuki
#68
ああまた生殖か 性のあるからだを捨てておれがおまえのコンビニになる
/ 展翅零 2020年11月2日 毎日歌壇 加藤治郎選
https://twitter.com/Attacusatla
鮮烈でありながら寄り添ってくれます。
/この歌を推薦した人 ほのふわり
https://twitter.com/Honofuwari
#69
ゆっくりとしゃべるから神様にゆるされているみたいなきみの声
/ 溺れる Twitter
/この歌を推薦した人 _
#70
工程が次第に進んでいく感じここから先はしばらく強火
/ 津中堪太朗 同人誌『硝子回覧板』
https://twitter.com/tsunaka_fh
淡々と事実を述べているような歌ですが、この瞬間を切り取った視点がとても好きです。この先の予感めいたことを感じさせます。
/この歌を推薦した人 鈴木ベルキ
https://twitter.com/pandakirinkaba
#71
栗ごはん炊飯器ごと手渡され愛はズドンと腕にくるもの
/ 鳥原さみ うたの日2022年10月11日お題『手』
ズドン、ってオノマトペと景のおもいきりのよい勢いが魅力的でした
/この歌を推薦した人 寿司村マイク
https://twitter.com/xHksbNR4wv1wj8M
#72
断面をひからせて梨 仕事中泣かれるとすごく困るんだって
/ 鳥さんの瞼 本人Twitter
https://twitter.com/withoutSSRI
かつてブラック企業に勤めていた時、自律神経が完全に狂ってしまい、ふとした瞬間悲しくもないのに涙がダラダラ出てくる時期がありました。あの時あの場所では誰も涙を流すことを心配してくれなかった。ただ迷惑そうに「いいよな女は泣けて」と言われるだけでした。梨はすごく瑞々しい果実です。その甘くてさっぱりとした果汁を口に含みたくて旬になるとよく食べます。なので、梨を切る時のあのじんわりとした梨の涙が、自分の代わりに涙を流してくれる…流してくれよ自分の代わりに。以降泣きたくなる時は梨をふと思い出します。
/この歌を推薦した人 新妻ネトラ
#73
巻き貝のなかを明るくするように母は美大はむりよと言った
/ 鳥さんの瞼 氷川短歌賞2022
https://twitter.com/withoutSSRI
上の句も下の句もそれとしておもしろくて、下の句を読むと上の句がさらにおもしろくなる。何度読んでも飽きることなくずっとおもしろい。今年一番の歌はこの歌です。ガムみたいに何度もかみました。
/この歌を推薦した人 池田竜男
https://twitter.com/tankadragonman
#74
さまざまな海のなきがら集められしんしんと鮮魚コーナーの九時
/ 鳥さんの瞼 『 海 』 うたの日 https://t.co/i2mlZGSsUV
https://twitter.com/withoutSSRI
/この歌を推薦した人 吉田岬
#75
手を合わせ今日の墓標であることをあらためて知る夜の食卓
/ 長井めも 同人誌『苗 第二歌集』
https://twitter.com/longmemo_tanka
短歌ユニット〈苗〉の同人誌『苗 第二歌集』の個人連作「夜の食卓」より。連作の表題歌。とても佇まいのうつくしい歌で、息を呑みました。主体の職業と密接に関わる食への理念が感じられます。読み返すたびに深く静かな気持ちになるお歌です。
/この歌を推薦した人 小金森まき
https://twitter.com/koganemorimaki
#76
PERFECT-TAB-CHORD-MELODY 何があったんだろうって考えてしまうくらいの-やさしさ
/ 仲井澪 同人誌『Q短歌会機関誌第五号』2022.11.01
「何があったんだろうって考えてしまうくらいのやさしさ」と「何があったんだろうって考えてしまうくらいの-やさしさ」が、全然違う……と思った。「何があったんだろうって考えてしまうくらいの【行為/態度……】」がひとまずあるとして、それをどう捉えるかには〈私〉の感覚/判断が挟まる。その時間が、この「-」によって、書かれている、と思う。音楽の共通する一曲をさまざまに演奏できるように、様々に表せるように、どのようにでも言える/書ける【それ】がある。
/この歌を推薦した人 おだやかな視点
https://twitter.com/Hiraide_Hon
#77
走れ耳 芳一の耳 DNA 来るよ枯葉を鳴らして逃げろ
/ 池田竜男 2022年05月03日 うたの日 題「鳴」
https://twitter.com/tankadragonman
疾走感と手強さがあって、気づけば考えている中毒性のある歌。
/この歌を推薦した人 朧
#78
大きな蕪引くように自慰果てた後窓の向こうをひとつ浮雲
/ 池田竜男 2022年09月06日 うたの日 題「○○○をひとつ」
https://twitter.com/tankadragonman
「大きな蕪引くように自慰」がとにかくいいですよね。
「大きな蕪」っていわれると、童話の「おおきなかぶ」が頭に浮かんで、こどもを想像するんですけど、そこから「自慰」に接続されるというすごい歌です。
「引くように」のたった五文字の間に想像していたこどもが一気に成長する感じがありました。
下の句の「窓の向こうをひとつ浮雲」の自慰が終わった後、世界をぼんやりとみている様子もいいなと思いました。
「大きな蕪」からはじまり「浮雲」で終わるのも好きです。
/この歌を推薦した人 林あかり
https://twitter.com/negototoshi
#79
その小さなコップは、シソ科、ハッカ属、炭酸水は一瞬で
/ 谷川由里子「オールド・バーン・ペパーミント」 同人誌『Q短歌会 機関紙第五号』
https://twitter.com/YTanigawa1982
全然分からない、のだが、こんなに嬉しくて仕方がないのはコップ(これはガラスの透明なものと読んで無理がなく、その他の材質よりも嬉しくなるのだからガラスだ)、シソ、ハッカ、炭酸水という全て抜けていくような、そして絶妙に質感のある名詞のせいだろう。くすぐったく、でも、嫌じゃない。気持ち良すぎもしない(たとえばシソ科、は無くたってハッカと言うだけでミントのことは示せるわけだけど、シソ、という言葉がなければこんな気持ちにはならない)。
読点をおいて、言葉の手触りを一つ一つ確かめていくような、そしてそれをこちらにも手渡してくれる、その目的が分からないのだが、無いのかもしれないのだが、本当にありがたい。大好きな歌である。
/この歌を推薦した人 小山鶴
https://twitter.com/me_shio_omizu
#80
おれのこと川と思って気の利いたこと言えんけど光っとくから
/ 第二灯台守 2022年10月28日 うたの日 題「川」
https://twitter.com/2nd_lightkeeper
人のことを思いやる」には様々な形がある。優しさは本来綺麗なものであるはずなのに、相手を自分の理想に閉じ込めて、型抜きのように無理やり変形させようとすることもあるだろう。「あなたのため」が苦しい。「良かれと思って」が苦しい。
この短歌を見てはっとなった。優しさは、相手に押しつけるためだけじゃない。相手のために、自分は変身できると伝える、こんなに美しい言葉があっただろうか。あなたが川であることを教えてくれて、本当に嬉しい。あなたが川で本当に良かった。
/この歌を推薦した人 やわらかおばけ
https://twitter.com/orange_adabana_
#81
寝不足のやうな目をして口ごもるちよつぴりシャイな陛下、大好き
/ 大辻隆弘 歌集『水廊』 1989年 砂子屋書房
大辻隆弘は1960年生まれ。この短歌は歌集『水廊』に収録されている連作「王権の秋」の一首だ。この連作においては「日本」という言葉も「天皇」という言葉も出てこないが、ここで描かれる「陛下」は、その風貌や愛され方から類推されるように明らかに「昭和天皇」のことだろう。「寝不足」「口ごもる」「シャイ」というギリギリの言葉づかいで、そして最後を「大好き」で締めるポップさで、この短歌(およびこの連作)に潜む痛罵にも似た批評性を和らげ、読者の心にねじ込む。わたしたちはなんと不穏でグロテスクな国家に生きてきたのだろうか。
/この歌を推薦した人 虫追篤
https://twitter.com/musouatsushi
#82
くびれたる箇所より不意にかき暗む内面をもちて壺のふくらみ
/ 大西民子 歌集『無数の耳』 1966年 短歌研究社
大西民子は1924年に生まれ、1994年に亡くなっている。大西はおそらく、自分を裏切った夫を待つ情念の短歌の詠い手としてよく知られているのだろうけれど、この短歌のような、日常の中に潜む、普段は気づかないような(あるいは大西以外は気づけないような)不穏さ、薄暗さを描く短歌にも名作が数多い。この短歌を読むと、世界中にあらゆる壺が暗い「内面」をその「ふくらみ」の中に潜ませている、そんな不穏な世界に人は生きていることに気づかされる。
/この歌を推薦した人 虫追篤
https://twitter.com/musouatsushi
#83
まどは にんげんが いなくなると どっちが そとでも よくなりました
/ 多賀盛剛 Twitter
/この歌を推薦した人 _
#84
おとしたら、おちてくほうを、ひとにして、おちひんほうで、そらをつくった、
/ 多賀盛剛 ネットプリント「シリアルキラーがシリアルキラーを偶然殺す確率」
連作としての一連のリズムも素晴らしいのですが、とにかく出だしのこの歌の一気に読み手を引き込む力がとんでもないと思います。
/この歌を推薦した人 岩瀬百
https://twitter.com/momo_iwase
#85
楽園、で終わるしりとりならいいね ふたりで地図を燃やしつづけて
/ 早月くら 2022/06/29うたの日「ん」
https://twitter.com/k_hayatsuki
物語性があって、ちょっぴり耽美的だけれど軽やかで、とにかく綺麗な歌だと思います!
/この歌を推薦した人 今紺しだ
https://twitter.com/imaconsida
#85
楽園、で終わるしりとりならいいね ふたりで地図を燃やしつづけて
/ 早月くら 2022年6月9日 うたの日 題「ん」
https://twitter.com/k_hayathuki
「いいね」と上の句の軽い語り口から、下の句の「燃やしつづけて」の繋がりで無邪気な怖さを感じます。
そして確かな絶望感がありとてもうつくしいと思いました。
だいすきな歌です!
/この歌を推薦した人 古川 柊
https://twitter.com/furukawasyuu
#86
小説を読み終えるようにかみさまは人のいのちを閉じるのでしょう
/ 早月くら 2022/10/13 Twitter 連作『Too far to touch』
https://twitter.com/k_hayatsuki
どこか寂しさも感じるのだけれど、それでいて「かみさま」の優しさをも感じられるような気がして、とても美しく素敵なお歌だと思いました。
/この歌を推薦した人 藤野ゆくえ
#87
おいしいねレーズンパンのズンパンのところで踊り出しちゃうくらい
/ 川島薪 2022年10月10日 うたの日『自由詠』
https://twitter.com/ShortBeat57577
今年一番心の中で踊らせていただきました。とっても元気を貰える一首です。
/この歌を推薦した人 マーチ
https://twitter.com/mar3TD3ch3
#88
手を洗いすぎぬようにね愛してたからねそれだけは確かだからね
/ 雪舟えま 歌集『たんぽるぽる』 2011年・2022年(文庫版) 短歌研究社
愛していた人への想いは、愛さなくなったら消える訳ではなく、いつまでも自分の中に残る。でもそれは未練ではなくて。ちょっとだね心配したり、どこかでしあわせでいてくれればいいのになという気持ちに共感しました。愛されていた人はいつも手を洗いすぎてしまう強迫性障害だったのかな、もう愛していない今でも大切に思われている。
/この歌を推薦した人 あるいは
https://twitter.com/aruiwa_imaimai
#89
もらとりあ(無の枕詞)無理してるわれらのもらとりあ 無数の詩
/ 青松輝 同人誌『Q短歌会機関誌第一号』
モラトリアムということばを「もらとりあ」で切ってしまう大胆さにとても惹かれた。大人になったらそれこそ【無】みたいな日々を、擦り切れた心で送ることになる。その一つ手前の段階、青年期の段階がモラトリアムに当たるけれども、まさにそれは「もらとりあ」が無を導いている。「もらとりあ」をカタカナにしなかったところも素敵だと思った。ひらがなの柔らかい感じがまだ定まらない若者の、未完成で不器用ながらあたたかい感じを伝えてくれる。
辛いことがあった日、悲しいことがあった日、つぶやいてみると少しすっきりとした気持ちになれる。
/この歌を推薦した人 つまり隠喩
#90
残された時間でガラスケースからふたりのための駅弁を選ぶ
/ 西鎮 ネットプリント「鉄道短歌秋報4」2022年10月14日
https://twitter.com/xi_zhen_ivUT
「残された時間」から、もうすぐ電車が来るのだろう。「ガラスケース」が、とても大切なものを示す暗喩のよう。それは、これから過ごす二人の電車旅。慌てながらも、楽しそうな景色が浮かぶ。
/この歌を推薦した人 蒼音
#91
金じゃねえ、金じゃねえって言いあってしっかり割り勘して別れたな
/ 西鎮 筋肉短歌会「お金より大切なもの短歌」(2022年11月26日)
https://twitter.com/xi_zhen_ivUT
調べが魅力的な歌だと思う。「かねじゃねえ」のn音・e音の貼りつくようなリフレインから、「しっかりわりかんして」のs音・k音の断ち切るような措辞への移行にはユーモアさえ感じられる。「別れたな」でn音が、つまり俗な人間らしさが帰ってくるのも魅力的な部分だと思う。建前と本音、ユーモア、独白に向く短詩形、調べ、俗世、現代短歌のよさが詰まった歌だ。
/この歌を推薦した人 ぽっぷこーんじぇる
https://twitter.com/popcorngel
#92
躓きを恥じることなくおおらかに笑ってきみはただ青嵐
/ 晴架 2022年7月14日 うたの日 題「恥」
https://twitter.com/haru_uka24
初夏、主体と「きみ」が二人で歩いている。友人か恋人か、学生なのか社会人なのか、様々に想像できますが、同い年ではあるのかなというイメージで読みました。飾らない涼しさをもつ「きみ」へ主体が抱く憧れと愛しさが、夏の日のひかりとともに読み手に燦々と伝わってきます。
歌意、情景ともに爽やかで眩しく、心に残るお歌でした。
/この歌を推薦した人 藤井
ここで半分です。まだまだ続きます!
#93
オリオン座しかわからないけど(だからこそ)オリオン座だって教える
/ 水野葵以 歌集『ショート・ショート・ヘアー』(書肆侃侃房、2022年)
/この歌を推薦した人 あぼがど
#94
友達の(いま元になった)上京だ あばよ都会で痛い目見やがれ
/ 人魚の呪い ネットプリント『大脳神秘室』及びTwitter
実際の経験関わらず読者をひりひりさせてしまう短歌はすごい。負の感情が剥き出しなのに、こんなに魅力的なのは何故なんだろう。
この独白生々しくあまりに無防備で切実。啖呵をきってはいるが、怒りや攻撃的なだけではない心情が滲み出ている。
この逼迫した苦しさ、悔しさ、悲しさが読者を同じ地点に引き摺り込むのではないか。
主体と元友達の間に何があったのか、わかるのは「上京」だけ。
「いま」というのはどの時点なんだろう。個人的には、「上京」のギリギリの地点だったんじゃないかと思っている。
上京するんだ、と本人あるいはその周囲からきかされてずっと押さえつけてきた思いが、「いま」噴出し、「あばよ」になった。
ある程度大人になってからの絶交というのはぼんやりしたものだと思う。しかしこの歌では主体が一方的に決めている。そしてその部分は内向きな文の中でさらに括弧にくくられ仕舞われている。
この内容は本人には言えなくて、もしかしたら実際に別れを告げる時は笑顔を作ったのかな、なんて想像する。ギリギリさがすごく胸に迫る。
主体は、元友達のことがすごく好きだったのではないか。それなのに一人で上京して変わっていってしまうなんて、主体には辛くてたまらないんじゃないか。それを、絶交の形でどうにか折り合いを付けているんじゃないか。
秘められた苦しさとともに、訣別の歌でもある。
まるで自分の中の架空の記憶が痛みだしてしまうような力あるお歌でした。大好きです。
/この歌を推薦した人 鳥さんの瞼
https://twitter.com/withoutSSRI
#95
出鼻でも挫くか…ボキーッ!あの人の鼻血の色をみんなで見よう
/ 深山睦美 2022夏 現代歌人協会ネットプリント作品集
https://twitter.com/57577_77575
笑いました。二句までの勢いが好きで選びましたが、改めて向き合うとこの歌の主体は一体だれなんでしょう。
まず(出端か出鼻かという点は一旦おいといて)出鼻を挫くひとって、悪意と使命感をもって挫いてる場合と、そんなつもりないのに…と誤って挫いてる場合がほとんどだと思うんです。でもこの主体は「出鼻でも挫くか…」とまるで暇つぶしするみたいに呟いていて、動機が謎です。
「ボキーッ!」からは目の前でがっつり挫かれた出鼻(というか鼻)が想像されますが、「あの人の」って言ってるから物理的に距離があるひとのように感じます。
「みんなで見よう」も不思議な呼びかけです。主体を含む「みんな」は安全な場所にいて、出鼻を挫かれたひとだけが姿を晒しているような状況なんでしょうか。主体は出鼻を挫いておきながらどこか他人事というか、当事者意識が低そうです。
ここまで考えて、これってもしかしてSNS上のやりとりで、主体はなにかしらのアンチ活動をしているひとなのかなと思いました。なにか新しいことを始めようとしている有名人やインフルエンサーに対して、それを面白く思わない主体が暇つぶし程度に出鼻を挫いて遊んでいる。そしてどんな鼻血を出して苦しむのか、主体を含む「みんな」はSNS越しに見て楽しんでいる。そんな図が浮かびました。怖いですね!
/この歌を推薦した人 アライアヤ
#96
やさしさが煙たい、月をひとつしか許さぬ空に救はれてゐる
/ 森山緋紗 ネットプリント「塔短歌会十代二十代以外歌人特集」
https://twitter.com/MoriyamaHisa
優しくされることは普通は嬉しいことだが、それが過剰であると、鬱陶しく感じることがある。また、優しくする人に同様の優しさを強要させられるようなこともある。そんなささくれだった心で見上げた夜空には、必ず月は一個しかない。そのことが、過剰なものに囲まれがちな日常の救いになるという着眼点が鋭い。
/この歌を推薦した人 中型犬
#97
みんなが聴かないようなロックを聴きながらいつか故郷になる六畳間
/ 新妻望 同人誌『朝-あした- vol.3』
https://twitter.com/hopeisnotyet
故郷は何処であってもいい。今いる場所を、生きづらい何もかもを脱して、達観した未来の自分が見ている。そんな幸福の可能性、優しさに包まれた、好きな作品です。
/この歌を推薦した人 涸れ井戸
https://twitter.com/kareido1111
#98
書庫をでるときの歩幅のつたなさのそのまま会いにゆく、ができない
/ 上田優士 ネットプリント『Have a Nice Day.』(2022年10月19日)
https://twitter.com/6voJeyLWtfKWPyg
静かさ、小ささ、緩やかさを持ち、そのすべてが有用に作用している。結句に読点を仕込み、強制的に句切れを作ることで、元来句切れがない歌であることを際立たせるとともに、結句までの長大な句跨りを錯覚させる作用もあるといえよう。いわば4.5句切れというこの手法の効力を十全に発揮した歌だ。歌意の繊細さ、切なさは言うまでもない。
/この歌を推薦した人 月岡烏情
#99
ひたすらに自己PRし続ける一次試験に受かった体で
/ 小野愛加 結社誌「ポトナム」2022年12月号
/この歌を推薦した人 天野うずめ
https://twitter.com/uzume_no_hijiri
#100
les angesとは天使の複数形だから時にイナゴの群れ飛ぶように
/ 小俵鱚太 ラジオ「短歌部カプカプのたんたか短歌」第84回
https://twitter.com/kotawarakisuta
歌意が伝えるように〈les anges〉はフランス語で「天使たち」、「御使いたち」。米国の都市・Los Angelesと同意でもある。歌は、これらのことからするとやや皮肉めいた飛躍として〈イナゴの群れ〉へ着地する。私は蝗害を想起したが、逆説的に非常にしっくり来る感触もあり、空恐ろしくなった。
/この歌を推薦した人 西鎮
https://twitter.com/xi_zhen_ivUT
#101
秋最中北鎌倉の龍彦の墓前に立ちて開く秘術書
/ 小竹陽 mixi「短歌点」コミュ1016お題:「術」
澁澤龍彦の墓前で行われる私だけの儀式。文学や短歌等の創作のために行われるのか、「龍彦」の龍のイメージ、著書と思われる書の「秘術書」のイメージが響きあい、「北鎌倉の龍彦」「立つ」の「た」の音の韻、「開く秘術書」の「ひ」の音の韻が心地よく、題の「術」を活かしていた短歌でした。
/この歌を推薦した人 六浦筆の助
https://twitter.com/Tohakumutun5057
#102
みみかきの端なるしろき毛のたまよ触るるせつなにさいはひのあれ
/ 小池光 歌集『草の庭』
発見は平凡な日常の中にも溢れていて、更にそこから無数の祈りが生まれる可能性があることに気づかせてくれた歌です。更に読むときに自然に毛のたまが耳に触れた時の感触も思いだしてしまう、身体感覚にまで訴えかけてくるという合わせ技が本当にすごい。
/この歌を推薦した人 岩瀬百
https://twitter.com/momo_iwase
#103
間引かれた子どもに河童がおっぱいをあげてるような町に住みたい
/ 小倉るい 2022年8月1日 うたの日 題「おっぱい 」
やさしいやさしい『おっぱい』のお歌です。『遠野物語』をベースにされているとのこと、心に強く深く訴えるものがあります。現代の町にも河童が戻ってきますように。
/この歌を推薦した人 小野小乃々
https://twitter.com/aurora_konono
#104
八朔の「っさ」にはつなつ予感して皮をむくとき果汁はじける
/ 小泉キオ 結社誌「未来」2022年8月号 連作「はつなつをしる」
https://twitter.com/kiokoizumitanka
「っさ」に完璧に心をつかまれた。初夏を「はつなつ」と読むと知り、ひと時、はつなつばかり詠んでいたそう。「っさ」という響きも愛しく感じてしまうくらい、心が躍っていて、とっても愛らしい歌。おかげでこの夏、「っさ」とよく口ずさんでいた。
/この歌を推薦した人 杜崎ひらく
https://twitter.com/kousei_tsurun
#105
人間になって間もない生きものよ見ておくれ世界のいいところ
/ 小松岬 歌集『しふくの時』2022年 私家版
https://twitter.com/toudaigurashi
幼い子どもが産まれて、生きていることが、ときどき奇跡的な偶然に思えて胸に迫ることがあります。その感じが、この歌を読んだ瞬間に来ました。まだおびやかされることを知らないうちに、この世界の「いいところ」を受け取ってほしい。連作の中心には確実に怒りがありますが、その中ほどで、こんなにも率直に慈しむ心を込められるのかと驚きました。
同時に、この世界にまだ手渡すに値する「いいところ」があってほしい、という主体の願いも、織り込まれているような気がします。
/この歌を推薦した人 第二灯台守
https://twitter.com/2nd_lightkeeper
#106
目に映るすべての景色が詩なんだよわかるか、なぁ、火ぃ貸してくれるか
/ 小坂井大輔 歌集『平和園に帰ろうよ』2019年 書誌侃侃房
https://twitter.com/kozakaipunks
かっこいい。煙草の景が成功すると、ここまでかっこいいのだ。寺山修司や千種創一の煙草も好きだが、この短歌はまた違った魅力がある。
こんな風に語りかけてくれる先輩がほしかった。あるいは、作者の小坂井さんが、こう語りかけてくれているようにも錯覚してしまう。この人の作る飯を食べてみたいと思う。この歌を読んでから、いつか平和園に帰ってみたいと思うようになった。
/この歌を推薦した人 姿煮
#107
信号をならんでわたる心臓の音にも五月の深浅はあり
/ 小黒世茂 歌集『九夏』2021年 短歌研究社
/この歌を推薦した人 涸れ井戸
https://twitter.com/kareido1111
#108
ぴ 小鳥のようにきみを呼べたら ぱ やさしい手品を披露できたら
/ 初谷むい 歌集『わたしの嫌いな桃源郷』2022年 書肆侃侃房
「ガラス玉を星のかけらと思いこめる感受性は、その星のかけらの鋭い刃先でみずからの心を傷つける」は寺山修司の言葉ですが、この短歌がすでに透明なガラス玉のよう。
/この歌を推薦した人 やわらかおばけ
https://twitter.com/orange_adabana_
#109
カレーパンの生地にパン粉をまぶしつつ何をしてるんだろうと思う
/ 春日草鴫 うたの日2022.09.13「パン」
パン生地にパン粉をくっつけたパン。よくよく考えてみれば確かにカレーパンは変なパンかもしれない。こういうことに気がついてしまう作者が本当にうらやましいと思えた歌。そしてそれを「何をしてるんだろうと思う」という、頭に浮かんだそのままのような表現で言いきってしまうクールさにしびれました。
/この歌を推薦した人 岩瀬百
https://twitter.com/momo_iwase
#110
駅ビルの屋上だけどこの街でいま天国にいちばん近い
/ 春原シオン 2022年02月10日 うたの日題「自由詠」
https://twitter.com/haruhara_sion
以前から春原さんのファンでしたが、この歌でぶち抜かれました。駅ビルの屋上だけでも十分雰囲気があるのに、天国にいちばん近い……不謹慎ですが、絵面としてはそのまま羽を生やして飛び立ってしまいそうな儚さとインパクトがありました。近場の駅ビルのコンコースを歩く度思い出します。大好きです。
/この歌を推薦した人 月下さい
https://twitter.com/tsukishitasai
#111
どこまでもあなたとは他者 唐揚げにレモンかけてもいいですか、他者
/ 若杉有紀 2022年7月18日 毎日歌壇
https://twitter.com/May_Rock_2096
「他者」という言葉の温度について考えるきっかけになった歌でした。主体にとってあなたとは、明確な、例えば血の繋がりのような結び付きはないのだと思います。レモンをかけてもいいかと訊く行為からは、相手の嗜好を知り尽くしているわけではなく、それでも尊重していたいという関係性や(良い意味での)距離感を感じました。とても好きな歌です。
/この歌を推薦した人 早月くら
https://twitter.com/k_hayatsuki
#112
元々はジャスコのくせに年末のディズニーの混み方しやがって
/ 若杉有紀 歌会たかまがはら2022年7月号
https://twitter.com/May_Rock_2096
平日にイオンに行ってめちゃくちゃ混んでいたとき、脳内でこの歌が再生されます。こういう歌を詠みたいなと思いました。
/この歌を推薦した人 CHONO
#113
雨音がするねサヨナ・ラ・サヨーナラ・ら・らずべりい・いちご ごめんね
/ 捨て鉢 第2回フルーツ・バスケット がらくたみずうみ「秤動」
6首からなる相聞歌連作の最後の1首です。
雨音を聞いているふたり。沈黙の中でだんだん雨音が「さよなら」に聞こえてきて、気を紛らわすためしりとりが始まったのでしょうか。ラズベリーといちごのチョイスがいかにも恋の甘酸っぱさを感じさせます。「らずべりい」が平仮名なのも、字面が可愛らしいのはもちろん、「ら」から始まる単語を思い出しながらゆっくり声を発している雰囲気があり素敵です。そして「ごめんね」。どう頑張っても別れるしかないふたりのやるせなさを感じます。主体がごめんねを言えるように相手が「いちご」で返したのか、最初からこのしりとりは主体が「ごめんね」を言うために心の中で助走のように行ったものなのか、想像が広がります。
内容に加え、「ね」と「ら」が多く配置されていて口に出したとき楽しい歌です。その中で、「いちご」と「ごめんね」の「ご」に悲しいラストを演出する重さがあるように感じます。
/この歌を推薦した人 川下知世
#114
世に麺と出汁とスープと背脂の調和がありますように、ラーメン
/ 篠永共佳 2021年05月23日うたの日「ラーメン」
/この歌を推薦した人 吉田岬
#115
VIPからきますたくらいの足取りで今日も出勤するのだ⊂二二二( ^ω^)二⊃
/ 鹿沼古湖 本人Twitter
https://twitter.com/kanimisohamster
西荻窪のBREWBOOKSさんの「短歌部」というイベントでたくさんの縦書きの短冊の中に一首横書きの短歌がありました。VIPからで始まってアスキーアート⊂二二二( ^ω^)二⊃で終わるの笑わされた。野暮かもしれないけどアスキアートの部分はブーンと読みます。出会いかたも相まってこころに残ってます。軽妙で素敵な一首だと思います。
/この歌を推薦した人 真野陽太朗
https://twitter.com/kuroinogaboku
#117
白球が逃亡の赤とらへたる一メートルの旅路の終り
/ 寺山修司 藤原龍一郎『寺山修司の百首』2022年 ふらんす堂
ビリヤードの場面をここまで哀愁のただようドラマに仕立てる寺山修司の発想と表現に脱帽しました。
「一メートルの旅路の終り」がとても切なくて好きです。
/この歌を推薦した人 六浦筆の助
https://twitter.com/Tohakumutun5057
#119
こんなにも広き空ありて地平ありてこの世の誤解は解く術がない
/ 三枝昂之 歌集『世界をのぞむ家』2008年 短歌研究社
今、読んでほしい歌。自宅に続く大きな坂道を自転車で下るとき、川を挟んだ向こうにも街が見えて、天気がいいと富士山が見えて、大きな空が広がっている。その景色に向かって進む時、いつもこの歌を思い出す。
/この歌を推薦した人 長井めも
https://twitter.com/longmemo_tank
#120
傘という字には四人も人がいてそのままカラ館とかに行くんだろ
/ 桜井あらん FRANCOIS
https://twitter.com/sakurai_alan
結句の投げやりな様子から、遊びに行こうとしているグループを見て、妬ましさやうらやましさをこめて「ケッ」と思っているのでしょう。そうして「傘」の字を見ているとわいわいやってそうで、主体と同じ気持ちになります。カラ館にいくという予想外の展開が面白いです。
/この歌を推薦した人 鈴木ベルキ
https://twitter.com/pandakirinkaba
#121
花器に挿すひまわりはすぐ枯れるからきみはずうっと日向にいてね
/ 坂口涼太郎 2022年7月25日 本人Twitter
https://twitter.com/RyotaroSakaguTw
この方は #涼短歌 というハッシュタグでご自身のSNSに短歌を投稿されている俳優さんです。昨年11月に「お話しをしているうちにきみのこと好きになりましたという伝説」という歌で坂口さんを知ってから、誰もがきっと記憶に思い描けるありふれた優しい愛を独特のワードセンスで紡ぐ坂口さんの虜になりました。7、8月はひまわりの短歌をよく見かけたのですが、花を手折り側で囲うのではなく、客体のただ明るく末永い未来を祈るという下の句があまりにも愛おしく、冬になっても忘れられない短歌でした。
/この歌を推薦した人 好乃智紀
https://twitter.com/yoshino_tomoki
#122
黄昏のようにストールをかけられてなんてやさしい誘拐でしょう
/ 斎藤君 2022年10月16日 うたの日 お題「ちょっと羽織るもの」
ストールの柔らかさ、軽さ、温もりがとてもよく伝わってくる「黄昏」の比喩も、ひらがなへの開き具合も、丁寧に主体が恋人にストールをかけられたことのわかる「を」を省略せずに敢えて字余りにしているところも、細部までこだわりを感じさせるとても美意識の高いお歌だと思いますし、結句の破壊力がものすごいです。こんな素敵な誘拐なら自分もされてみたい!と誰もが思うのではないでしょうか。
/この歌を推薦した人 澪那本気子
https://twitter.com/mionamajikobot
#123
永久にサビにいかないAメロのような僕らが行くサイゼリヤ
/ 斎藤君 うたの日 題『 久 』
この作者の短歌で他にも素敵な歌が沢山ありますが、これを詠まれたしばらく後にサイゼリヤ短歌の選者になられていたということもあってこの歌を推します。永久にサビにいかないAメロとサイゼリヤの釣り合いがとても良く背景を色々想像することが出来、楽しく心を掴まれた一首です。
/この歌を推薦した人 奈瑠太
#124
公転も自転も感じない夜に前だと思う方へ歩いた
/ 砂崎 柊 東直子 『短歌の時間』「回転」 2022年 春陽堂書店
「公転も自転も」感じることなく生きている私たち。敢えて「感じない夜」と書くことで、主体の限界ギリギリの心身が浮かびます。「公転」「自転」ということばのせいか、描かれていないはずの月明かりが細く見えてくるようで、印象深い歌です。
/この歌を推薦した人 鳥原さみ
#125
座礁するひかりを眺める夜の淵 やさしいものだけ見せていて、夏
/ 佐藤 Twitter・note
https://twitter.com/tarutotatanka
佐藤さんの歌はいつも青色を感じる。雨や海の水のうつくしさを教えてくれる。中でもこの歌の優しいきらめきが大好きです。
/この歌を推薦した人 あるいは
https://twitter.com/aruiwa_imaimai
#126
ぼくの持つバケツに落ちた月を食いめだかの腹はふくらんでゆく
/ 佐々木定綱 歌集『月を食う』2019年 KADOKAWA
今年読んだ歌の中で一番かっこよかったです。この情景をこう捉えてこんな歌にできるんだ、という憧れとともに。
/この歌を推薦した人 黒澤沙都子
https://twitter.com/nubatamanokkkk
#127
丁寧に休暇と書いた手紙から微かに波の音がしている
/ 高階しらす 2021年05月09日 うたの日 お題「暇」
https://twitter.com/takashina_ak
衝撃でした。景が現実を超えて目の前に広がったお歌で、さらに言うと五感すべてを奪われました。
丁寧に書かれた文字の手紙を手にした主体の指の感触が、読み手にまで伝わってきます。さらに下の句の「微かに波の音がしている」で、聴覚にくっきりとザザン、という満ち干きの音が響きました。それによって潮の香りまで鼻腔をくすぐり、これら全てが昭然たる景を作り出していて、何度読んでも泣きそうになります。すべてが生きた三十一文字ってこういうことなんだなぁと心から思わされた歌です。休暇の文字は主体から手紙の差出人に少し距離を作るようで、、胸が締め付けられます。きっと休暇が終わったら主体の元に帰ってくると思いたいけれど、残念ながらもう帰って来ない気も、しなくはないですね。
/この歌を推薦した人 巣守たまご
https://twitter.com/sugomorigogogo
#128
家も妻も好きで今ごろアボカドを家で育てている妻だろう
/ 御殿山みなみ 一人短歌結社ざるそば二周年特別号
一読して、こんなのろけかたあるんだ!と驚いたと同時に、あまりの微笑ましさに笑ってしまいました。アボカドを育てている妻、かわいい!
生活のなにげない瞬間(でもすこしだけ心がネガティブなとき)に家や妻のことを思い出して、改めて好きを感じる気持ち、とても共感できます。主体が今いる場所としては夕暮れ、帰り道、駅のホームなんかを想像しました。すこしさみしさを感じていそう。
主体は以前にもアボカドを育てている妻を見たことがあって、そのときも妻や、そんな妻がいる家を好きだと思ったのではないでしょうか。アボカドを育てている妻を見ている時間というのは、平和そのもので、主体が家のなかでとてもリラックスできているのがわかります。
ささやかなしあわせを大切にしていきたいという主体の想いが伝わってきて、こんなふうに愛したい、愛されたいと思える大好きな一首です。
/この歌を推薦した人 アライアヤ
#129
賞味期限の近いものから順番に魚肉ソーセージ踊りはじめる
/ 戸田響子 歌集『煮汁』2019年 書肆侃侃房
戸田さんのお歌は怖いものが多いと思うのですが、このお歌もめちゃくちゃ怖いです。一読すれば賞味期限切れのソーセージをフライパンの上で焼いている様子を詠んだユーモラスなお歌だと思うのですが、これを人間に変えた時にゾクッとします。何か別のものに変えた時にガラッと違う景色を見せてくれる歌は文句無しに名歌だと思うのですが、そのなかでも群を抜いた一首だと思います。それにしても、怖い歌だ。。シチュエーションは違うのに、なぜか芥川龍之介の【蜘蛛の糸】を彷彿とさせられます。
/この歌を推薦した人 巣守たまご
https://twitter.com/sugomorigogogo
#130
勝てないと分かったときの夕焼けが赤くて赤くて赤くて痛い
/ 月白紫苑 11月3日うたの日『勝』
悔しい気持ちが夕焼けの赤とリフレインで表現されていて、本当に悔しいことがあったんだなということ想像させられるお歌でした。さらに最後の「痛い」でより悔しい気持ちが引き立てられ少し泣いてしまいそうになりました。
/この歌を推薦した人 初夏みどり
https://twitter.com/___shoka____
#131
わが歌にならぬものらが傘さして通り過ぎるを窓に見てゐつ
/ 近藤由宇 ネットプリント「塔短歌会十代二十代以外歌人特集」
確かに、多くの人は自分にとって関わりの無い人ばかり。それを「わが歌にならぬものら」と表現したところに、歌人としての鋭い視線がある。その観察力。
/この歌を推薦した人 蒼音
#132
ここからはあなたであって性器ではないところ あたらしい燎原
/ 袴田朱夏 2022年11月10日 うたの日 題「自由詠」
https://twitter.com/hakamada_shuka
性器を焼き尽くし、次にあなたすべてを燎原にしようとする愛と破壊の貪欲さが心に強く残りました。
/この歌を推薦した人 朧
#133
タバコ吸うのをどんどんうまくなりたい 道にサスペンダーが落ちてた
/ 橋爪志保 歌集『地上絵』2021年 書肆侃侃房
https://twitter.com/rita_hassy47
タバコがまだうまく吸えない頃のカッコつかなさや、誰かに言うほどでもないけど少しめずらしい状況を見たこととか、自分のなかにもあったそういう小さいことが愛おしく感じました。
/この歌を推薦した人 平安まだら
https://twitter.com/ooogomadara
#134
ぶんなぐるサンドバッグが揺れてゐる 殴り返してこないサンドバッグ
/ 宮本背水 結社誌「塔」2022年8月号
https://twitter.com/takatanka80
殴られることが役割であるサンドバッグは、当然「殴り返してこない」。ただごと歌ではあるのだが、中の句「揺れてゐる」に達観している雰囲気を感じ、宿命について考えてしまう。
/この歌を推薦した人 蒼音
#135
いみのないおとのられつだぼくたちはラーメン(大)をむさぼりつくす
/ 宮本背水 結社誌「塔」2022年11月号
https://twitter.com/tankatanka80
なぜ人はラーメンに魅かれるのだろうか。「ラーメン」という言葉の響き、麺をすする音、スープをすくうレンゲが器に当たる音、店主の趣味で流れる音楽、もしくは無音。欲望は一過性のもので、この歌の通り「いみのないおとのられつ」ではあるのだが、それでも「ラーメン(大)」をむさぼってしまう愚かな我々。ラーメン好きとして実際のラーメンの歌としても読めるし、欲望の象徴としてラーメンという抽象としても読める奥行きのある歌。
/この歌を推薦した人 中型犬
#136
タンポポよこちらを向いて咲かないでいま死を決意したばかりなの
/ 宮田美乃里 歌集『死と乙女』
/この歌を推薦した人 たまごだまこ
https://twitter.com/tamagodamako
#137
羽衣をとられた天女わたくしを殺したひとがわたしの夫
/ 宮田美乃里 歌集『死と乙女』
/この歌を推薦した人 たまごだまこ
https://twitter.com/tamagodamako
#138
生きてれば同じく生きている花に泣いたりできる 愛はみちづれ
/ 久久カナ Twitter RIUM #初句企画(2022.6.2)
https://twitter.com/moonusagitenshi
結句で唐突に愛が出てくる勢いの良さ、言い切り方が力強くて、勝手に励まされる心地がしました。「旅は道連れ」の変奏だとしたら、「愛にはみちづれがあったほうがいい」と読めるでしょうか。四句目までの「生きること」についての言及が、一字空けを経て愛することに変換されたようにも見えます。
みちづれがあったほうがいい、だから、一緒に行こうね、と引っ張っていってくれる一方で、花のいのちに泣いたりする感じやすさもあって、強さと繊細さの均衡がとても好きです。みちづれにされる側が存在するとしたら、その相手の気持ちまではこの歌からわからないけれど、いやな気はしないんじゃないかなと思います。
こちらは別媒体に投稿された一首ですが、やっぱり力強くて、生命力を感じます。
生きていていいと思えたのは生きていたかったから 朝焼けを呑む
https://www.utayom.in/t/f0502aaa
/この歌を推薦した人 第二灯台守
https://twitter.com/2nd_lightkeeper
#139
常夜灯 君の容器に君という水が入っている人がいい
/ 橘春 ネットプリント「橘プロジェクト」
/この歌を推薦した人 尾崎飛鳥
#140
OLの弁当ほどの重たさで生まれて5年かかって死んだ
/ 吉田竜宇「白の距離」 短歌総合誌「短歌研究」2012年1月号
「OLの弁当」とは何グラムぐらいだろうか。100グラムほどの重さで生まれてきた児と考えれば、むしろ5歳まで生きられたことが奇跡のように思える。「5年かかって死」ぬまでいかなる延命措置を施したのか……などと暗澹な想像が掻き立てられていく。最初から早世を運命づけられていた人、いつか死ぬ私たち……忘れ得ない歌だ。
/この歌を推薦した人 ぽっぷこーんじぇる
https://twitter.com/popcorngel
#141
夕焼けは誰と見たって夕焼けであなたと見ればすごい夕焼け
/ 吉村おもち 「俵万智×AI 恋の歌会」「恋のうた」部門入選作(2022.8.19朝日新聞朝刊掲載)
https://twitter.com/mechanobiru
夕焼けの印象が情感そのものとして強く伝わってくる、代え難い名歌だと思います。今年印象に残った短歌、としてまず一番に思い浮かんだ歌です。
/この歌を推薦した人 海月莉緒
#142
遠くから見る方がよい絵の前に人のあらざる空間生まる
/ 吉川宏志 歌集『石連花』2019年 書肆侃侃房
https://twitter.com/aosemi1995
「人のあらざる空間」を認識できるの、すごすぎます。それが「生まれる」という表現も。
/この歌を推薦した人 さとや
https://twitter.com/capucapusatoya
#143
ドッグラン全力疾走するオレをおまえ黙って見ているだけか
/ 菊華堂 2022年11月11日 うたの日 題「犬」
一読してそれからは、この歌のなかの「オレ」に日々何かを問われ続けるような気持ちになりました。だからと言って「おまえ」を責めるわけではなく、それならそれで「オレ」は走るけど?というような距離感が心地よく感じます。この評を書いているうちに、犬ではなくて飼い主が全力疾走していて、実は犬見知りの犬の歌かも...とも思えてきて楽しくなります。
/この歌を推薦した人 鳥原さみ
#144
カニカマを縦に咥える アラサーはいつも楽器を始めてみたい
/ 岩倉曰 2022年09月10日 うたの日 題『 自由詠 』
https://twitter.com/wakuwakuiwaku
主語がでかいな〜!と思いつつ、やけに納得してしまう一首です。たしかにアラサーのわたし、いつも楽器を始めてみたい。
初読では楽器を始めてちょっとわくわくしてみたい、くらいのニュアンスで受け取りました。アラサーっていろんなことに慣れてきて、ちょうどわくわく不足になりそうな年齢ですよね。
「咥える」とあるので、おそらくこのカニカマはほぐされていない状態のものかと思います。そこで、カニカマ一本まるごと咥えるシチュエーションってなに?と考えたんですが、家にいたとしても外にいたとしても、一人で食事するときしかこんなことしない(し、こんなこと考えない)よなと思うんです。カニカマ一本まるごと咥えるのって「まぁ一人だしこのままでいいか」みたいな、主体のちょっと雑な性格が表れていてそこも面白い。
カニカマ一本まるごと咥えるような主体は一見、自由に生きていそうですが、その食事シーンを想像するとどこか世間と距離をとっているような、生きづらさのようなものを感じます。楽器も「いつも始めてみたい」とは思いつつ、本当はそんなにやりたいと思ってないんじゃないかな〜なんて。そう考えると「楽器を始めてみたい」のはどこか遠くへ行きたいという意味にもとれて、改めてその気持ちはよくわかるなぁと思うのです。
/この歌を推薦した人 アライアヤ
#145
小説の好きなシーンを当てられてそれからあまり話していない
/ 岩倉曰 2022年8月3日 うたの日 題『 ない 』
https://twitter.com/wakuwakuiwaku
自分の好きなシーンを、他人がわざわざ当てようとしてくるのは、相手によってはちょっといやだなと思うかもしれません。まだそこまで親しくないのに自分の内面に踏み入られるような気がして、守りの姿勢に入ってしまう気がするのです。
しかもそれが当たっていると、予期せずして自分の内面を晒すことになります。屈辱にも近い居心地の悪さを感じてしまいそうです。
取り立てて騒ぐことではないけれど、ちょっといやな感じが掬い取られていて、とても共感した大好きな一首です。
/この歌を推薦した人 吉村おもち
https://twitter.com/mechanobiru
#146
ろうそくの数がきちんと増えることそれをきちんと喜べること
/ 丸瀬まる うたらばフリーペーパーvol.32
https://twitter.com/maruse__maru
身近にいる人がいつも身近にいてくれるのは当たり前のことではないんだなとあらためて思わせてくれる、心を打たれた歌でした。
/この歌を推薦した人 CHONO
#146
ろうそくの数がきちんと増えること/それをきちんと喜べること
/ 丸瀬まる 短歌×写真のフリーペーパーうたらばvol.32【数】
https://twitter.com/maruse__maru
とてもシンプルに見えるお歌ですが、大事なことを教えてくれる優しさと奥深さを感じました。年齢を重ねていく中で、様々な役割を期待されるようになり、自身の誕生日を素直に祝うことが難しいと感じる人も少なからずいるのではないでしょうか。そんなとき、きちんとまた一つ年を重ねられることが当たり前ではない奇跡なのだと、儚くもあたたかなろうそくの灯りを抱きしめるように喜べたらいいなと思います。
/この歌を推薦した人 飛和
#147
震えてるモンシロチョウの洗脳で水平線を消す日曜日
/ 海老沼夕 2022年07月31日 うたの日 題「日曜日」
https://twitter.com/3o1ZHnm5TsZryki
この歌をみたとき、すごく驚きました。
意味よりもまず言葉の並びの美しさが先にきて、意味はどうでもよくなる感覚。
どうしても意味をいつも考えてしまうんですけど、この歌の前では意味が無力になって、言葉をそのまま受け取れる気持ちよさがありました。
「モンシロチョウの洗脳」だけでもすごいなって思うのに、そのあと「水平線を消す」が来て、ほんとに痺れました。
「震えてる」から始まるのもかっこいいし、大好きな歌です。
/この歌を推薦した人 林あかり
https://twitter.com/negototoshi
#148
鶏肉に火が通るのを待っている どうしてあなたが泣いたんだろう
/ 海野いづれ「そこらじゅう」 短歌ムック「ねむらない樹vol.8」第四回笹井宏之賞最終選考作
https://twitter.com/uminoidure
上の句から下の句への飛躍が、主体の「意識がこの場を離れている」感じとリンクしていて素敵です。場面のチョイスも絶妙だと思います。
/この歌を推薦した人 海月莉緒
#149
逆に不思議じゃないちゃんのわたくしも置かれた場所であんま咲けない
/ 海月莉緒 東京歌壇(2022.11.27)
「不思議じゃないちゃん」という言葉が出てくる主体のおもしろさもありつつ、不思議ちゃんのことも気にかけているような感じもしていいなと思いました。
/この歌を推薦した人 平安まだら
https://twitter.com/ooogomadara
#150
だってそんなの失礼じゃんか失恋のこと寄席みたいに聴きたがって
/ 海月莉緒 2022年11月20日東京歌壇東直子選特選一席(11月月刊賞)
人の悲しい話や情けない話はあまり無闇に聞いたりしないものですが、失恋のこととなると少し話が別であるような気がします。特に過ぎてしまった失恋については、割とあっさりと「聞いてもいいこと」にカテゴライズされるように思います。失恋も喪失のひとつであるというのに、興味本位で聞かれて、話題のひとつとして消費される。「寄席みたいに」という比喩がぴったりだと思いました。大好きな一首です。
/この歌を推薦した人 吉村おもち
https://twitter.com/mechanobiru
#151
煙草吸わないでって言ったじゃんほらていうかさ、花言葉って誰が決めたの
/ 花浜紫檀 2022.11.21毎日歌壇 加藤治郎選
https://twitter.com/ruri_murasaki
「ていうかさ」の前後の語らい同士の二物衝突の味わいが素敵です。「ていうかさ」自体もさることながら、全体的に口語の良さを最大限に活かした上で構造として短歌らしい味わいを担保している、強固な歌だと思います。
/この歌を推薦した人 海月莉緒
#152
思い出せ、わたしが白菜だったころ氷雨は恵みの雨だったこと
/ 歌眠 2022年12月01日 うたの日 題「冬」
冬の冷たい雨も白菜にとっては恵みの雨である、という視点だけでも多元的な価値観を表す良歌となりそうなところに、初句の命令形のインパクト、そこから続く「わたしが白菜だったころ」という設定に、独自の世界観の広がりを感じました。憂鬱な気持ちを鼓舞してくれるお歌でよく口ずさんでいます。
/この歌を推薦した人 飛和
#153
独り立ちの相談を聞く 目の奥に小さき蠍を飼ういもうとの
/ 歌眠 2022年11月1日 うたの日 題「蠍」
短歌のいいところの一つは無限の拡がりで、ひとつひとつの単語が端正な短歌はその良さを存分に引き出せるのだと思う。
このお歌の単語には無駄がない。そしてごく静か。
主体はこの中でいもうとの、「相談を聞く」。具体的な計画を練ったりするのではないし、とめどない愚痴をきいたのではない。でもこの聞くだけの関係の中に、静かな距離感と信頼感が揺蕩っている。
そして妹の描写。怪物ではなく、「小さ」いながら致死量の毒を持つ蠍、という選択も絶妙。砂漠に暮らす蠍の強さと孤独。そしてそれを「飼って」いる。普段はあまり「蠍」の部分を表に出さないのかもしれない。
単語そのものだけでなく、表記にも無駄がない。
聞く、からの全角スペースを置くことで「目の奥に小さき蠍を飼う」の比喩がさらに光っている。内容としても、カメラワークとしても内に内に入っていき、内向的ながら芯のある妹像がたちあがってくる。また、全角スペースの間に主体の思いが込められているのかもしれないと思わせる。
「独り立ち」が「ひとり」「独り」ではないのも歌のムードや「蠍」という重厚な字面に合っているし、「いもうと」と開かれることによって年頃の危うさ、主体から見れば年下であること、若年女性である立場の弱さが感じられる。
歌のおわりが「いもうとの」で止まるバランス感も美しい。倒置法ととることもできるし、その先に何か続くのかもしれない、という幅もある。
読み取れる部分も想像できる部分も多く、言葉の力を感じるお歌でした。大好きです。
/この歌を推薦した人 鳥さんの瞼
https://twitter.com/withoutSSRI
#154
親方が養生しとけと言うもので帰って養生しておりました
/ 夏野ネコ 「うたの日」11月5日「業界言葉」
https://twitter.com/natsuneko2000
業界言葉の「養生」と普通の言葉として使われる「養生」の意味の勘違いをまさに落語のオチのセリフのようにサラッと読んでくすっとさせる。今読んでも笑ってしまう精巧な一首で私の中では間違いなく秀歌です。
/この歌を推薦した人 六浦筆の助
https://twitter.com/Tohakumutun5057
#155
君と見た桜がいまも鮮やかで忘れ方さえ忘れてしまう
/ 音羽澟 短歌総合誌『NHK短歌』2022年7月号短歌写真部 テーマ「花」
https://twitter.com/Oto_wa_rin
忘れ方を忘れる、って初読で胸にこみ上げるものがありました。何度も何度も読んでいるうちに私は大切な記憶の忘れ方を最初から知らない気もしてきました。忘れられない素敵なお歌です。
/この歌を推薦した人 小野小乃々
https://twitter.com/aurora_konono
#156
感想をいわないしきかないそれで全部をわかるときがあるから
/ 岡野大嗣 歌集『音楽』 2021年 ナナロク社
/この歌を推薦した人 あおたな
#157
居場所など諦めたのに両膝を父にもらつた愛と抱へる
/ 岡本恵 第十回中城ふみ子賞・佳作受賞作『残響』
自らの膝を抱えて座る主体の姿を想起した。幼い頃、父の膝の上に座った記憶が景の裏側にあるのだろう。存在への愛情とかつて自らへ注がれた愛情の両方が、その存在を喪失することで寧ろ深まる様が、この両膝に託されている。
/この歌を推薦した人 西鎮
https://twitter.com/xi_zhen_ivUT
#158
今日君と目が合いました指先にアセチルコリンが溜まる気がした
/ 永田紅 歌集『日輪』2000年 砂子屋書房
/この歌を推薦した人 たまごだまこ
https://twitter.com/tamagodamako
#159
高校楽しくなかった人と高校すごく楽しかった人が10年後エアホッケーをするかもしれない
/ 永井祐 歌集『広い世界と2や8や7』2020年 左右社
三句以降の仮定がうまく言えないけど全員を救うような感じがして、高校比較的楽しくなかった自分はこれを読んだとき、とても嬉しかった。ふと、昔のことを思い出すたびに一緒に鳴るようになった歌。
/この歌を推薦した人 長井めも
https://twitter.com/longmemo_tank
#160
ためらわずフルーツサンドに手をのばせ 青山通りの真ん中歩け
/ 丑野つらみ 2021年5月17日 うたの日 題「サンドウィッチ」
https://twitter.com/tsurami_dejima
この短歌を読むたびに泣いてしまう。自分はフルーツサンドを手に取る権利すらないのだと、諦めていたのはいつからだったのか。この短歌に背中を押されたような気がして、読んだその日は会社に行く足取りが少し軽くなったのを覚えている。
/この歌を推薦した人 やわらかおばけ
https://twitter.com/orange_adabana_
#161
また蚊の賑わう飛鳥山公園で500mlのビール飲んでジャンプしましょう/爆 発 す る カ ン ブ リ ア
/ 雨月茄子春 同人誌『多脚』2022.11.20
https://twitter.com/ugetsunasuharu
笑いながらしか話せないこと、は、笑いながら話せばいいと思う。こらえなくていい。真顔で言っている、ということによって増幅される面白(おもしろ)があるのはわかるけど、そのために「今、笑いたいあなた/私」を犠牲にするほどじゃない。
この歌は、笑ってる、と思う。カンブリア爆発ってカンブリアが爆発してるってことじゃない、のに、っていう面白さをたっぷりとスペースを使って見せてきてる。うれしすぎる。ちゃっかり、こちらに「ツッコミ」の役割を持たせてきている周到さ……とかまでを踏まえて、おもしろい。
これはもうこっちの話だけど、ほっとけば真顔になって面白いことを言えば「真顔で言ってる」になりがちな短歌というフィールドで思い切りその(言わば)信仰をはぎ取ってくれた……ことにも感謝したい。
「ジャンプ」「ビール」「500ml」「公園」「賑わい」「また」……この歌の全部が、追いかけてくるように【ここ】を祝祭の場にしてくれる。
/この歌を推薦した人 おだやかな視点
https://twitter.com/Hiraide_Hon
#162
みずからも驚くような声色で子を叱るとき砂になる雨
/ 安藤みなも 2022年09月17日うたの日 題「時」
/この歌を推薦した人 あぼがど
#163
天体の奥まで覗き込むように問い詰めそうで子から離れる
/ 安藤みなも 2022年10月13日 うたの日 題「天」
「天体の奥まで覗き込むように」という表現がとてもうつくしいです。自分が子を叱るときのことを重ねて読みました。たとえ自分が産んだとしても、子には子の天体があり、感情に任せて奥まで覗き込んでいいものではない。だから「子から離れる」という、子をおもう主体の深い愛情と葛藤が感じられます。はじめて読んだときからずっと心に残っているお歌です。
/この歌を推薦した人 小金森まき
https://twitter.com/koganemorimaki
#164
みずからのみぎてとひだりてをつなぐこれがいちばんわかりやすい火
/ 安田茜 詩客「火の話」(2022.8.12)
忘れてはいけないとつよく思っていることを、一方で思い出さないようにしている気配もあり、今年もっとも印象に残った連作のひとつでした。
二句から三句への句跨りでつながれたみぎてとひだりては、それまでは同じひとつの体温をもっていたはずが、つなぐことでより熱い火が生じています。忘れようと忘れまいと、そこにある身体に触れることで、明らかに「火」のあることは意識される。大きなほのおはときに捉えにくくても、目の前のおのれの手に、すでに火はある。同連作の次に来る一首も含め、私にとって忘れがたい短歌です。
/この歌を推薦した人 第二灯台守
https://twitter.com/2nd_lightkeeper
#165
まだ夜が残された朝あいさつのひとつのように寒いねと言う
/ ゆみきち 本人Twitter
俵万智さんの「寒いね」と話しかければ「寒いね」……を思い出しました。朝の一瞬の幸せを切り取った素晴らしい短歌だと思います。
/この歌を推薦した人 ふじのん
#166
風向きと風速測りながら いま この瞬間は稟議がとおる
/ みおうたかふみ 2022年6月26日 / たにゆめ杯3 ゆうぐれ自由大臣賞『良しとする課長』
まず、推薦者はこういった「ツッコミを読者に委ねる」短歌が大好きです。稟議書に風向きも風速も関係ないでしょう。明らかにそんなワケない不合理な出来事を堂々とかつ淡々と詠むことで説得力を与えつつ、読者からするとそこの部分のズレがシュールで、出来の良いコントのように面白いです。
おかしな話かもしれませんが、今年のワールドカップの日本対スペイン戦でのMF堂安律選手のゴールでこの歌が脳裏にあらわれました。
「いま この瞬間は稟議がとおる」。一瞬の隙を狙い澄まし目標に突き刺さる真っ直ぐな視線。そんなワケない不合理な景。かっこよさと面白さが絶妙に噛み合った、ユーモアあふれる名首だと思います。
/この歌を推薦した人 音忘信
#167
右足でしか降りられない階段でたった2秒のフォークダンスを
/ まくなぎ 同人誌「西瓜」第三号「ともに」欄
怪我をして片足で降りようとしている人に対して手を添えて手伝っていると読みました。主体が怪我をしているのか、それとも主体は手伝ってあげている方なのか。どっちがどっちでもその二人が重なるイメージが美しいです。
/この歌を推薦した人 鈴木ベルキ
https://twitter.com/pandakirinkaba
#168
小説のようにやさしく畳むのね眼鏡を本と数えるひとよ
/ マーチ 2022年8月発行 メガネプリ
https://twitter.com/mar3TD3ch3
眼鏡の数え方から小説というモチーフへ繋げる発想が秀逸で素敵だと思いました。上の句からは実際に眼鏡を手に取って畳む様が目に浮かびます。また、語りかけるような口語のやさしい雰囲気がお歌を引き立てているのと同時に、眼鏡をやさしく畳む相手への愛情深いまなざしを感じました。本好きの眼鏡ユーザーとして心に残る一首です。
/この歌を推薦した人 飛和
#169
惑星じゃないのでございます、と言い泣いてしまった冥王星人
/ ぷくぷく うたの日 2022年10月 自薦5首 (うたの日10月19日題「ございます」)
https://twitter.com/pukupuku2020
惑星なのか否かもそうだし、そもそも惑星の定義自体、地球人が勝手に作って当てはめていたものなのに(それによって冥王星人の生活はなんら変わりないと推測するのに)、律儀にも泣いてしまう冥王星人に、切なくもほっこりしてしまいました。自分とは関係ない場所で生まれた評価が、いつの間にか定着し自分もそれになんとなく誇りを持ち長く生きてきて、突然その評価を取り外されてしまったら.....そりゃあ心許ないし泣きたくもなっちゃうよなぁ、と会ったこともない冥王星人の気持ちを勝手に想像してしまいました。また、その事実を「ございます」という丁寧語で喋り、言葉にしてしまってから堰を切ったように泣き出してしまった冥王星人を思うとき、似たような律儀さを目にしたことがあるような気がしてなりません。
/この歌を推薦した人 たちばな
https://twitter.com/autumn_o_tcbn
#170
女って分からねえよな岩下の新生姜色のミュールで澄まして
/ ハリお 2022年09月02日うたの日題『ミュール』
女性が履くミュールは確かに「岩下の新生姜」色という表現がぴったりだと思います、上の句で「女って分からねえよな」と悪態をつきながらも本当は主体は女性とそう遠くない距離感に接していてその上で「女って分からねえよな」と言っているのかもしれないスリリングさも感じました。痛快です。
/この歌を推薦した人 つきひざ
https://twitter.com/northmount836
#171
バス停はポストに似てて僕たちは手紙に似てた雪の降る街
/ ナカムラロボ ダ・ヴィンチ2023年1月号 『短歌ください』題「バス」
https://twitter.com/nakamurarobot
/この歌を推薦した人 あぼがど
#172
比喩だった津波が比喩でなくなってそこからはもう上書きがない
/ といじま うたの日 2022年07月03日 『津波』
先日、新海誠の『すずめの戸締まり』が公開されて、あの震災から10年以上たった今も、自分の心になにかが張り付いたままだと自覚したとき、改めてこの歌を思い出しました。
わたしは当時、関東にいました。震災や津波で身近な被害(ブロック塀が崩れたりした程度)はあったけれど、知り合いや親戚はみんな無事でした。津波は、テレビの中でしか知りません。亡くなった人のことは、数字といくつかのエピソードしか知りません。
短歌はまだやっていなかったけれど、ネットでちょっとした創作をしていて、その頃の作品にはひとつも震災のことは書けませんでした。関連した書き出しのものをいくつか書いてみても、どうしても筆が進まなくなりました。
うたの日でこのお題が出た日も、やはり一度挑戦したのです。でも、知ったようなことしか書けなくて、どうにもならず何度目かの挫折を味わいました。当事者ではない私にとっては、挫折することが誠意のようにも思えました。出詠されたたった18人の作品は、当事者によるものか、比喩として消化しきった人のもの、どちらかだろうと思いました。
しかし、この短歌を見つけて、私は感嘆しました。「まだ比喩に出来ない」という感情そのものを、歌に出来るのか、と。作者は、誠実に自分の心と向き合いきった結果、こんな素晴らしい短歌を生み出したのだと、感動と嫉妬に狂いそうでした。本当に短歌を詠もうとしたら、自分のことしか詠めないのだと痛感しました。それがこんなに詩になるのだということも。
サザンオールスターズの桑田佳祐は震災以降、ライブで一度もTSUNAMIを歌っていないそうです。わたしも、いつか津波が比喩になるまで、ありのままに詠むのしかないのかなと思います。もしかしたら、そんな日は死ぬまで来ないかも知れないけど。
/この歌を推薦した人 姿煮
#173
好きだから好きだと言った好きだから好きだと言えなかったみたいに
/ たろりずむ 2020年11月18日うたの日題「リフレイン」
シンプルに好きです。好きだと言う気持ちも言えない気持ちにも共感します。その両者の違いを考えてみましたが私には答えが出せませんでした。だから、その違いを説明せずに、両者をお互いの比喩として紐付けられたことが嬉しくて、優しい短歌だと感じました。
/この歌を推薦した人 茅野
https://twitter.com/white22autumn
#174
ご褒美のケーキをひとつだけ買って階段タルトタタンと駆ける
/ ただのり 2022年12月10日うたの日『 自由詠 』
https://twitter.com/norider0914
とにかく可愛い!なんのケーキを買ったのかを階段をかける軽やかなステップに置きかえて詠み込む素敵さに打たれました…。
/この歌を推薦した人 あるいは
https://twitter.com/aruiwa_imaimai
#175
フォルカヌポォw 拙者ドMなものでして貴女の痛みも引き受けますぞ
/ T・G・ヤンデルセン 2022年11月29日 本人Twitter
https://twitter.com/TGyandersen
T・G・ヤンデルセンさんが人魚の呪いさんの『#初句 #付け句 フォルカヌポォw』というツイート?企画?への引用RTで投稿されていた連作(?)の中の一首です(どれも秀逸で実は推し短歌3首を全てここから引用しようか5日間以上本気で悩んでいました)。
客体に心配をかけまいと道化になりながら客体のつらさを一心に引き受けようとする、主体のあまりにも優しい愛とそれを(良い意味で)最高に台無しにフォルカヌポォwが大好きです。T・G・ヤンデルセンさんは天才だと思います。
/この歌を推薦した人 好乃智紀
https://twitter.com/yoshino_tomoki
#176
赤じゃなくピンクで文字を書きかえる16歳をいいなと思う
/ シラソ ダ・ヴィンチ2022年9月号 第175回短歌ください(自由題)
これを読んでから、日常生活でピンクのペンを使うようになりました。少し幸せになれます。
/この歌を推薦した人 さとや
https://twitter.com/capucapusatoya
#177
灯台はLighthouseと訳されて家というより空虚な箱で
/ ショージサキ「Lighthouse」 短歌総合誌「短歌研究」2022年7月号
https://twitter.com/fabfourcomicall
単なる灯台の翻訳に対するモノローグではない、自分自身が誰かに訳されるとすればどのような言葉になるだろうかという「自身の定義」について深く考えているような歌で、今年一番心に残った。また、灯台からLighthouseに訳されてはいるが、その起源を考えると順序としてはまずLighthouseから灯台に訳されたのでは、と思う。その時欠落してしまった家についてや、自身の起源にまでも思いを馳せるような気持ちになるのは、わたしだけだろうか。
/この歌を推薦した人 長井めも
https://twitter.com/longmemo_tank
#178
(あ、うつる)シャッター音のしないのがふしぎなくらい遅いまばたき
/ しま ネットプリント「ふたりぼっちの王国」(2022年10月10日)
その位置といい妥当性といい、パーレンの使いようが実に上手く得心がいく。小さな驚き、小さな警戒、読者のそれらを引き出して急速に歌中へと引きずり込みながら、一転スローモーションのようなその後の、緩急が素晴らしい。結句体言止めは、まさしくシャッターが切られ、永遠の写像として時と共にフレームに封印された有様に違いなく、まるで抜かりがない。
/この歌を推薦した人 月岡烏情
#179
皺のないセーラー服は脱ぎすててあなた好みの女になるわ
/ こうた
「皺のない」という出だしがとても好きです。乙女の青春が上手く表現されていて「ああ、こういうの詠みたいなぁ」と思った一首でした。
/この歌を推薦した人 ふじのん
#180
光源をいつかたずねる日が来てもそこに愛しか見つからないで
/ カラスノ 「光あれ」 同人誌『苗 第二歌集』
https://twitter.com/karasunosan
妊娠発覚から出産について振り返って描かれた連作の一首です。連作では主体の妊娠出産を通じて、様々な日常の光がその影もふくめて描かれており、そのなかでこの歌はその源に真摯に迫るものとして据え置かれていました。連作を読むごとに、「光」≒子どもとは人間の希望である一方、その影に大人のエゴや弱さがあることをあらためて考えさせられました。それでもいつか我が子に自らの産まれた理由を問われたとき、きっと我々大人は愛を捧ぐのでしょう。そうありたい、世界はそうあってほしいと望み努めるすべての人間のための美しい一首と読みました。人間が人間を産み育ててゆくはるかな決意が詠まれたこの歌を推薦しました。
/この歌を推薦した人 塩本抄
https://twitter.com/tankanosio
何度読んでも胸が苦しくてせつなくて泣きそうになります。あたたかいです。普遍的な祈りのお歌だと思いました。
/この歌を推薦した人 小野小乃々
https://twitter.com/aurora_konono
#181
すこし汗ばんだあなたが月影に濡れて窓辺に立つてゐる ゆめ
/ エントリーNo.5 2022年07月10日うたの日題「自由詠」
結句の一字空け「ゆめ」の余韻がとても好きです。ぼんやりと窓辺に立つ『あなた』を眺める状況からはっと我に返り夢だと気付く。『あなた』はもう会えない存在なのではないかと思いました。静かで美しいです。
/この歌を推薦した人 茅野
https://twitter.com/white22autumn
#182
ノーバディノウズを踊る真夜中にみんな終わりがこわい(レリゴー)
/ うゆに 2022年6月21日 / 本人Twitterより(短歌研究新人賞予選通過作)
今年リバイバルヒットを果たしたnobodyknows+の代表曲『ココロオドル』を軸に据えた一首。同曲はまったくアップテンポであり、聴けば元気になれる。テンションが上がる。そんな楽曲です。
その明るさを「真夜中」「終わりがこわい」と作中の雰囲気を逆方向に振っているのが印象的でしたし、効果的でもありました。
明るくて元気な曲を聴くということは、ある意味での現実逃避になり得ます。ずーっとテンションの高いこの曲を聴くだけでなく、踊る。景の裏側の暗さや不安が感じられ、その果てしなさに共感できました。
また最後の(レリゴー)。これは曲中に登場する合いの手です。これがあることでハイテンションのまま次の歌詞に繋がります。曲がこのままずっと続けば、真夜中が終わらなければ。それでも明日は来ます。うまく言えない不安を言外によく表現している一首だと思いました。
/この歌を推薦した人 音忘信
#183
ファスナーをあなたが上げてくれる日の背びれにも似た銀の航跡
/ うすい 2022年8月19日うたの日 題「航」
https://twitter.com/yako_halka
初めて読んだとき、言葉の美しさとその透明感に驚いた一首です。「ファスナーを誰かに上げてもらう」というワンシーンが背びれ、銀の航跡という比喩によって詩的に描かれており、上の句はa音でやわらかく、下の句はi音でキリっと引き締められているのも口に出したときに気持ちが良いと思いました。あなたが誰かは明示されていないのですが、それが逆にこのお歌に奥行きを出していると感じます。ファスナーを上げるとき、ふと思い出す一首になりました。
/この歌を推薦した人 睦月 雪花
https://twitter.com/mu_tsu_ki_s
#184
にあわない近眼鏡のひさかたのひかりのなかで出会いなおして
/ あらいぐま ネットプリント「メガネプリ」2022年8月20日発行
https://twitter.com/raccoon_496
眼鏡をかけることによりパートナーに再び恋をする、あるいは鏡の中の自分を改めて見つめ直すことができたのでしょうか。瑞々しさが美しい歌だと思います。
/この歌を推薦した人 千代田 環
https://twitter.com/chiyodatamaki
#185
ウォシュレット弱、弱、弱に変える音なんてなんたる個人情報
/ アライアヤ 2022年10月18日 うたの日 題『 ウォシュレット
ウォシュレットの強さというのは一見どうだって構わない情報ですが、「お尻にどの程度の水圧をかけるのが心地よいか」という、案外デリケートな情報だということに気づかされます。ピ・ピ・ピ、とウォシュレットの勢いを弱めている音を聞き、この人のウォシュレットは〈弱〉だと知ってしまって、あわあわと戸惑う様子が思い浮かびます。もしそれが知り合いだったとしても、きっと主体はこのことを誰にも言わず、心のうちに秘めたまま過ごすんじゃないかと思います。戸惑いとユーモアが絶妙で、響きにも楽しさがあり大好きな一首です。
/この歌を推薦した人 吉村おもち
https://twitter.com/mechanobiru
#186
さようならを先払いして僕たちは 先生、さようなら みなさん、さようなら
/ アカマツヒトコト 2022年7月28日うたの日 題「好きな挨拶」
きちんと最後に「さようなら」を言って別れるって、なかなか難しいことです。そんなことを考えもしなかった子ども時代との対比が、切なさを強調しています。
短歌のリズムから「せんせい、さようなら〜」のリズムに切り替わるのが面白く、印象的でした。
/この歌を推薦した人 千代田 環
https://twitter.com/chiyodatamaki
おまけ
今年の短歌2022下半期に参加いただきましてありがとうございました。過去4回の中で最も多い歌数が集まりました。たくさんの良い歌に出会えてうれしいです。
ノミネートされた短歌やコメントへの感想は Twitter #今年の短歌2022 もお使いくださいませ。
来年2023年もみなさまにとって良い出会いのある年になりますように🙏
また次回の参加をお待ちしております。
今年の短歌2022下半期
Fin.